骨細胞の形態と機能における最近の知見

骨細胞は骨基質に埋め込まれた細胞であり無数に張り巡らされた細胞突起で細胞性ネットワークを形成しています. この細胞性ネットワークは, グループとして機能する可能性から骨細胞・骨細管系と呼ばれ, 主に物質輸送, 力学的負荷感知, 骨代謝回転の調節に影響を与えると考えられています. 網塚憲生先生は, この骨細胞・骨細管系に焦点を当て, 骨の成長, 成熟に伴う骨改造における骨細胞・骨細管系の微細構造とその機能解析に取り組んでこられました. そこで, 今回のセミナーではその研究成果と, 臨床応用へ向けた今後の展開をご講演いただきました. 網塚先生は最初に, 骨細胞・骨細管系の構造と配列についてご説明さ...

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Published inDental Medicine Research Vol. 31; no. 2; p. 209
Main Author 網塚憲生
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学・昭和歯学会 31.07.2011
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Summary:骨細胞は骨基質に埋め込まれた細胞であり無数に張り巡らされた細胞突起で細胞性ネットワークを形成しています. この細胞性ネットワークは, グループとして機能する可能性から骨細胞・骨細管系と呼ばれ, 主に物質輸送, 力学的負荷感知, 骨代謝回転の調節に影響を与えると考えられています. 網塚憲生先生は, この骨細胞・骨細管系に焦点を当て, 骨の成長, 成熟に伴う骨改造における骨細胞・骨細管系の微細構造とその機能解析に取り組んでこられました. そこで, 今回のセミナーではその研究成果と, 臨床応用へ向けた今後の展開をご講演いただきました. 網塚先生は最初に, 骨細胞・骨細管系の構造と配列についてご説明されました. 骨細胞は骨芽細胞自らが産生した骨基質中に埋め込まれた細胞であり, 骨小腔という空間に存在しています. 骨細胞は多数の細胞突起を伸ばし, その突起は骨細管と呼ばれる細い管を通って骨基質内に張り巡らされています. 骨細胞の細胞突起は, 骨細胞同士や骨表面に位置する骨芽細胞の突起と互いにギャップ結合で連絡することで細胞性ネットワーク, すなわち骨細胞・骨細管系を形成し, 骨芽細胞と骨細胞は一つの機能的合胞体とみなされます. 網塚先生は皮質骨の骨基質を脱灰し, 細胞成分のみを固定した標本を用いて, 骨細胞同士が細胞突起をつなぎ複雑なネットワークを実際に形成している様子を捉えた走査型電顕像を供覧して下さり, その鮮明な画像に出席者からは感嘆の声が上がりました. 骨細管系は力学的負荷感知に役立ち, 骨細胞の突起と細管の間の空間は物質輸送に使われると考えられ, 骨細胞・骨細管系の配列の規則性は機能的に重要な要因となります. 長管骨を皮質骨と骨梁に分けた場合, 皮質骨は骨単位(ババース系)と呼ばれる構造単位から, 骨梁はBSU(basic structural unit)という基本単位から構成され, 骨細胞・骨細管系のネットワークはこれらの基本単位で一つの機能的統合が行われると推測されます. 網塚先生はcontact microradiographyで皮質骨を撮影した結果, 古い骨単位ほど石灰化度が高くなることを見出され, 一つの骨単位内における骨細胞・骨細管系を介した骨ミネラル輸送による二次石灰化の可能性について示されました. 本セミナーの後半では, 骨細胞・骨細管系の規則性と骨基質の成熟度および機能性についてお話していただきました. 骨梁のBSUでは幼弱なものは骨細管の配列は粗で不規則であるが, 骨改造を繰り返し骨梁が成熟するにつれて骨細管は密で規則的になり, より機能的に働くということをFGF23の免疫染色像を例に示されました. また, 高回転型骨代謝疾患モデルであるOPG遺伝子欠損マウスを用いた実験から, 骨代謝回転が亢進し骨改造が活発に行われると, 骨改造によって新たに生じたセメントラインが骨細管を分断し, 骨細胞の萎縮やスクレロスチンの産生低下が観察されたことからも, 骨細胞・骨細管系が機能的に働くためにはその配列の密度および規則性が重要であると説明されました. その他にも, 骨細胞特異的ジフテリア毒受容体発現マウスや, ヒトの老化徴候モデルマウスであるklotho遺伝子ノックアウトマウスを用いた様々な実験結果を示され, 骨細胞・骨細管系の重要性についてお話されました. 網塚先生は最後に基礎研究を少しでも臨床に還元していく重要性についてお話され, 改めて考えさせられるご講演をしていただき, 大変有意義な時間を過ごすことができました.
ISSN:1882-0719