19.当科における甲状舌管嚢胞の検討

甲状腺原基が第1第2鰓嚢間の咽頭壁内側に発生し, 前頸部正中を甲状舌管となり下降する. この甲状舌管の遺残, あるいは閉鎖不全により甲状舌管嚢胞は発生する. 今回, 当科で加療を行った甲状舌管嚢胞症例の検討を行ったので文献的考察をまじえて報告する. 1989年1月から2003年12月までに群馬大学耳鼻咽喉科で手術を行った甲状舌管嚢胞症例は25例であった. 男性10例, 女性15例で3歳から72歳まで幅広く分布し, 年代による偏りは認めなかった. 嚢胞の存在部位では, 舌骨前が12例, 舌骨下11例, 舌骨上1例, 舌根1例であった. ductと舌骨の位置関係では舌骨前に走行しているものは11例...

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Published inTHE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL Vol. 54; no. 3; p. 285
Main Authors 櫻井努, 安岡義人, 古屋信彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 北関東医学会 01.08.2004
Kitakanto Medical Society
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ISSN1343-2826

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Summary:甲状腺原基が第1第2鰓嚢間の咽頭壁内側に発生し, 前頸部正中を甲状舌管となり下降する. この甲状舌管の遺残, あるいは閉鎖不全により甲状舌管嚢胞は発生する. 今回, 当科で加療を行った甲状舌管嚢胞症例の検討を行ったので文献的考察をまじえて報告する. 1989年1月から2003年12月までに群馬大学耳鼻咽喉科で手術を行った甲状舌管嚢胞症例は25例であった. 男性10例, 女性15例で3歳から72歳まで幅広く分布し, 年代による偏りは認めなかった. 嚢胞の存在部位では, 舌骨前が12例, 舌骨下11例, 舌骨上1例, 舌根1例であった. ductと舌骨の位置関係では舌骨前に走行しているものは11例, 舌骨後方10例, 舌骨内貫通1例, 不明2例, ductなし1例であった. 病理組織では1例に乳頭癌が認められたがその他は通常のthyroglossal duct cystであった. 術後再発は2例に認められた. 異所性甲状腺を認めたものはなかった. 甲状舌管は発育しつつある舌骨の前面を下降するが, 舌骨は成熟するにつれて成人における正常な位置まで回転する. よって甲状舌管は舌骨の下面で頭側, 後方へ引きずり込まれることになる. つまり, 舌骨前面から後面へ鋭く曲がり, そして再び甲状舌骨膜, 甲状軟骨の前面を下降して最終の位置で峡部をつくり, かつ左右に分葉する. 舌骨自体は正中で左右の部分が合体して完成するから, 時に捕捉され舌骨骨膜, 稀には舌骨そのものを貫く形となる. 当科の症例で甲状舌管が舌骨内を貫通したものは1例のみであった. 文献上も舌骨の一部をかすめるように貫いている例は見受けられるが当症例のように舌骨体を完全に貫いているのは検索できなかった. 舌骨の左右が癒合する時期と甲状舌管がその部位を通過する時期が一致したときのみにこのような状態が生じると考えられるため, 一般に考えられているよりも稀な状態と思われた.
ISSN:1343-2826