介護保険と口腔保健
平成9年12月17日に介護保険法が公布された. この法律は, 加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり, 介護, 機能訓練ならびに看護および療養上の管理その他の医療を要する者等について, 必要な保健医療および福祉サービスの給付を行い, 国民の保健医療の向上および福祉の増進を図ることを目的としている. 保険給付は, 要介護状態の軽減, 悪化の防止または要介護状態の予防に資するよう行われるとともに, 医療との連携に十分配慮して行わなければならないこととされている. また, 保険給付は, 被保険者の選択に基づいて, 適切な保健医療, 福祉サービスが, 多様な事業者や施設から...
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Published in | 口腔衛生学会雑誌 Vol. 48; no. 2; p. 169 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本口腔衛生学会
30.04.1998
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ISSN | 0023-2831 |
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Summary: | 平成9年12月17日に介護保険法が公布された. この法律は, 加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり, 介護, 機能訓練ならびに看護および療養上の管理その他の医療を要する者等について, 必要な保健医療および福祉サービスの給付を行い, 国民の保健医療の向上および福祉の増進を図ることを目的としている. 保険給付は, 要介護状態の軽減, 悪化の防止または要介護状態の予防に資するよう行われるとともに, 医療との連携に十分配慮して行わなければならないこととされている. また, 保険給付は, 被保険者の選択に基づいて, 適切な保健医療, 福祉サービスが, 多様な事業者や施設から, 総合的かつ効率的に提供されるよう配慮しなければならないこととされている. そして, 保険給付の内容や水準は, 要介護者に対して, できる限り, その居宅において, その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう配慮されなければならないこととされている. 保険給付には, 居宅および特例居宅介護サービス費, 居宅介護福祉用具および住宅改修費, 居宅介護サービス計画費, 施設および特例施設介護ならびに高額介護サービス費の支給のほか, 予防給付等が市町村を実施主体としてなされることになっている. 要介護認定を受けようとする被保険者に対しては, 市町村の当該職員または市町村から委託を受けた指定居宅介護支援事業者の介護支援専門員が, 申請者の心身の状況, その置かれている環境等について調査することとなっている. この介護支援専門員は, 要介護者からの相談に応じ, 要介護者等がその心身の状況等に応じ適切な居宅または施設サービスを利用できるよう市町村等との連絡調整を行う者であって, 要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識および技術を有するものとして厚生省令で定める者とされている. そして, 介護支援専門員の対象者は, 歯科医師, 歯科衛生士のほか16職種となっており, 5年以上の実務経験のある者について, 実務研修受講試験を実施し合格者に実務研修を行い, 都道府県知事が認定することとされている. 在宅の要介護者等について, 病院, 診療所または薬局の医師, 歯科医師, 薬剤師等により行われる療養上の管理および指導のうち厚生省令で定めるものを「居宅療養管理指導」とし介護保険の給付対象としている. このように, 現在は歯科保健医療に含まれている行為の一部が, 介護サービスに移行するとともに, 歯科医師や歯科衛生士は要介護者の認定に関与することができるようになった. 現在, 老人保健法により行われている医療等以外の保健事業のうち, 訪問口腔衛生指導や医療等で在宅医療としてなされている種々の行為の整理については, 現在当局等において検討されているが, いずれにせよ, 2000年(平成12年)4月から, これらの諸制度が開始されることになる訳である. すでに, 地域保健法の全面施行により, 歯科保健事業の大部分は市町村が実施主体となっているが, 市町村により物的, 人的資源に差があるためその取組みにも大きな格差が生じていることが明らかにされている. さらに, 介護保険の施行にむけて, 基盤整備とともに, 居宅および施設において行われる介護サービスのなかでも, 口腔領域の介護(歯科的介護)の内容を明らかにし, 早急に普及していくことが必要である. 口腔衛生学は, その対象を妊産婦, 胎児期, 乳幼児期を始め, 学童期, 成人期そして老年期に至るすべてのライフ, ステージにわたり, 健康な者のみならず, 疾病を有する者, 障害者等に対し, 口腔保健の向上と歯科疾患の予防を図り, 国民の健康と福祉の増進に寄与することをその使命としている. そのような意味で, 要介護者にかかわる口腔領域の諸問題を解明していくとともに, これらへの有効な対策を示していくことが必要であると考える. |
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ISSN: | 0023-2831 |