掌蹠膿胞症を伴う侵襲性歯周炎患者の病態解析
【目的】重度歯周炎に罹患した全身疾患患者の病態を解析することは, 多様な歯周病病態のメカニズムを理解する上で重要である. 掌蹠膿胞症は手掌および足蹠に膿庖を多発, 再発を繰り返す原因不明の難治性皮膚疾患であり, 扁桃腺炎の病巣感染によって引き起こされる皮膚疾患の一つと考えられている. 扁桃腺炎, 金属アレルギーや口腔細菌の熱ショックタンパクに対する免疫応答の異常がその病態に関わるとされるが, 詳細なメカニズムは何も明らかではない. 我々は, 掌蹠膿胞症に罹患した侵襲性歯周炎患者を経験した. 本報告は, この患者の歯周病病態を, 臨床的, 細菌学的, 生化学的および免疫学的に詳細に報告するもので...
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Published in | 日本歯周病学会会誌 Vol. 45; no. suppl-1; p. 150 |
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Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本歯周病学会
25.09.2003
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Subjects | |
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ISSN | 0385-0110 |
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Summary: | 【目的】重度歯周炎に罹患した全身疾患患者の病態を解析することは, 多様な歯周病病態のメカニズムを理解する上で重要である. 掌蹠膿胞症は手掌および足蹠に膿庖を多発, 再発を繰り返す原因不明の難治性皮膚疾患であり, 扁桃腺炎の病巣感染によって引き起こされる皮膚疾患の一つと考えられている. 扁桃腺炎, 金属アレルギーや口腔細菌の熱ショックタンパクに対する免疫応答の異常がその病態に関わるとされるが, 詳細なメカニズムは何も明らかではない. 我々は, 掌蹠膿胞症に罹患した侵襲性歯周炎患者を経験した. 本報告は, この患者の歯周病病態を, 臨床的, 細菌学的, 生化学的および免疫学的に詳細に報告するものである. 【症例】[被験者]掌蹠膿胞症を伴った36歳男性で全顎型侵襲性歯周炎と臨床診断された. 喫煙者[主訴]歯の動揺[現病歴]15年以上前に掌蹠膿胞症と診断されるが, 特に治療は受けていない. [家族歴および既往歴]特記すべき事項なし扁桃腺炎の既往は無い. [臨床検査]一般血液, 生化学, 免疫学的検査は株式会社BMLに依頼して行った. [歯周関連細菌検査]歯肉縁下ポケット内のプラークを採取し, P. gingivalis, P. intermedia, A. actinomycetemcomitansおよびB. forsythus(Bf)の4菌種のDNAをPCR法で調べた. [カテプシンC活性]歯周外科時に採取した歯肉から遊走した歯肉線維芽細胞を5継代まで培養し, Thieleらの記載(PNAS87;83-7, 1990)に従って, カテプシンC活性を測定した. 【結果】[臨床症状]口腔内所見:全顎的にプラークの付着, 歯肉の発赤および腫脹, 歯肉溝からの排膿を認めた. 口腔外所見:手掌および足蹠に皮膚の過角化および膿胞を認めた. 【臨床検査】CRP値, α1-アンチトリプシン, IgG, IgA, C3およびコチニン値の上昇, 赤血球数, 血色素値, ヘマトクリット値, MCHCおよび総コレステロール値の低下を認めた. [免疫学的検査]抗核抗体および抗DNA抗体は陰性を示した. HLA:クラスI:HLA-A11 A24 B52 B62 Cw4(-)クラスII:HLA-DR4 DR-15 DQ1 DQ3[歯周病細菌検査]Bfが多部位から検出された. 一方, 残りの3菌種は検出されなかった. [カテプシンC活性]正常値を示した. 【考察および結論】パピョン, ルフェーブル症候群と類似した臨床症状を呈した本患者は, 複数の炎症マーカーが高値を示し, Bf感染が特徴的であった. 一方, カテプシンC活性は正常であり, パピヨン, ルフェーブル症候群とは異なる病態であった. 歯周治療により, 感染源をほぼ除去した後も, 上記した炎症マーカー値は減少しておらず, 歯周組織への慢性的な細菌感染と掌蹠膿胞症との関連は特定できていない. とりわけIgA値が通常の約10倍値を維持していることから未特定の感染症あるいは疾患に罹患している可能性もある. 一方, 抗核抗体および抗DNA抗体が陰性であり, 臨床的にも自己免疫疾患を疑わせる所見を認めなかったことから, 自己免疫疾患様の反応が生じている可能性は低いと考えている. |
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ISSN: | 0385-0110 |