将来の農業形態と農薬科学

農薬科学の将来を論ずるにはまず将来の農業形態を考えねばならない. 昨今, 農業形態として従来の高エネルギーを投与する集約農業とともに有機農業が取り上げられるようになった. しかし, 有機農業の語の解釈に大きな混乱があるので, ここでまず有機農業の定義について述べよう. 有機農業とは そもそも有機農業(Organic farming)の語は1940年代にイギリスで使われ始めたもので, 化学物質を多用して作物を育てるのではなく, 足元の土壌を見つめ直して, 持続可能な農業を目指すものであった. すなわち, 土壌に有機物を還元することによって, 土質の劣化を防ぎ, 生産性と安定性を高めることを意図し...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published inJournal of Pesticide Science Vol. 30; no. 3; pp. 331 - 332
Main Author 満井喬
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本農薬学会 20.08.2005
Online AccessGet full text

Cover

Loading…
More Information
Summary:農薬科学の将来を論ずるにはまず将来の農業形態を考えねばならない. 昨今, 農業形態として従来の高エネルギーを投与する集約農業とともに有機農業が取り上げられるようになった. しかし, 有機農業の語の解釈に大きな混乱があるので, ここでまず有機農業の定義について述べよう. 有機農業とは そもそも有機農業(Organic farming)の語は1940年代にイギリスで使われ始めたもので, 化学物質を多用して作物を育てるのではなく, 足元の土壌を見つめ直して, 持続可能な農業を目指すものであった. すなわち, 土壌に有機物を還元することによって, 土質の劣化を防ぎ, 生産性と安定性を高めることを意図したものであった. しかし過去半世紀に亘って先端技術として世界に君臨し, 収量を劇的に高めた「緑の革命」から見ると, このような「有機農業」の概念はほんの周辺的な隠れた存在でしかなかった. やがて多投入, 多収穫農業に歪が現れると, 「有機農業」の概念が見直され, これに人に対する安全性, 生物多様性, 動物保護などの概念が派生的に加えられ, 現在はむしろ後者に重点が置かれるようになり, 世間一般にいわれる「有機農業」すなわち, 「無農薬, 無化学肥料農業」の概念が出現した.
ISSN:1348-589X
1349-0923