1. 抗腫瘍免疫からの回避機構に関する研究

免疫原性のある悪性腫瘍は, 腫瘍抗原の消失, 免疫抑制性のサイトカインや分子の発現, 免疫寛容の誘導など様々な抗腫瘍免疫の回避機構により腫瘍拒絶が阻害されていると考えられる. MHC class Iを発現していない腫瘍の場合, NK細胞が抗腫瘍免疫に重要となる. MHC classIの無いモデルとしてマウスES細胞を用いて抗腫瘍効果を検討した. その結果, ICAM-1などの接着因子が消失した場合に, NK細胞の抗腫瘍効果から回避することが示唆される結果を得た. また, 我々は, 倫理委員会の承認を得て, 50歳男性のNY-ESO-1陽性悪性黒色腫患者に, CHP結合NY-ESO-1蛋白(ES...

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Published in山口医学 Vol. 56; no. 5; p. 183
Main Authors 辻 和英, 岩月啓氏
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 山口大学医学会 31.10.2007
Yamaguchi University Medical Association
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ISSN0513-1731

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Summary:免疫原性のある悪性腫瘍は, 腫瘍抗原の消失, 免疫抑制性のサイトカインや分子の発現, 免疫寛容の誘導など様々な抗腫瘍免疫の回避機構により腫瘍拒絶が阻害されていると考えられる. MHC class Iを発現していない腫瘍の場合, NK細胞が抗腫瘍免疫に重要となる. MHC classIの無いモデルとしてマウスES細胞を用いて抗腫瘍効果を検討した. その結果, ICAM-1などの接着因子が消失した場合に, NK細胞の抗腫瘍効果から回避することが示唆される結果を得た. また, 我々は, 倫理委員会の承認を得て, 50歳男性のNY-ESO-1陽性悪性黒色腫患者に, CHP結合NY-ESO-1蛋白(ESO/CHP)を投与を行ったが, 腫瘍が進展した症例を経験した. NY-ESO-1は, CT抗原のひとつで, 液性及び細胞性免疫応答を同時に誘導できる強い免疫原性を有する抗原である. 一方, コレステロール抱合疎水化プルラン(CHP)は, 樹状細胞を介して, 抗原特異的CD4T細胞およびCD8陽性CTLを誘導する新しい抗原デリバリーシステムであるが, ESO/CHP投与4週後に, 腫瘍の病変部に一致した水疱形成と腫瘍の周辺に紅量を認めた. 病理組織学的にも, 治療開始後にNY-ESO-1陽性腫瘍細胞の細胞死を確認した. また, EHSA法により, NY-ESO-1特異的抗体価の上昇を認めるとともに, 血清IFN-γの上昇を確認した. しかし, NY-ESO-1特異的免疫応答の誘導は確認できたにもかかわらず, その後も腫瘍は増大傾向を示した. 本症例においても, 腫瘍部に形成した水庖内IFN-γの上昇は認めず, IL-10の上昇を認めるなど, 腫瘍病変部において免疫回避機構が存在したものと推察された.
ISSN:0513-1731