人工股関節全置換術後の脱臼例に関する検討
【目的】人工股関節全置換術(THA)後脱臼は, 治療上しばしば問題となる. 理学療法においても脱臼を起こしやすい例の特徴を把握し, 予防的な観点を持つ必要がある. この調査の目的はTHA術後脱臼例を対象として, 脱臼の起こった時期, 動作, 肢位, 脱臼回数などを調査し, それらの特徴, 関連性を検討することである. 【対象と方法】'91年から'01年の間にTHAを施行(全例とも後方侵入)された股関節疾患患者のうち, 当院にて理学療法を受け, 入院中または退院後に脱臼した15例(平均年齢67.5±9.0歳;男4例, 女11例)を対象とした. 対象者の手術状況(インプラントの...
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Published in | 理学療法学 Vol. 30; no. suppl-2; p. 208 |
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Main Authors | , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本理学療法士協会
20.04.2003
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Summary: | 【目的】人工股関節全置換術(THA)後脱臼は, 治療上しばしば問題となる. 理学療法においても脱臼を起こしやすい例の特徴を把握し, 予防的な観点を持つ必要がある. この調査の目的はTHA術後脱臼例を対象として, 脱臼の起こった時期, 動作, 肢位, 脱臼回数などを調査し, それらの特徴, 関連性を検討することである. 【対象と方法】'91年から'01年の間にTHAを施行(全例とも後方侵入)された股関節疾患患者のうち, 当院にて理学療法を受け, 入院中または退院後に脱臼した15例(平均年齢67.5±9.0歳;男4例, 女11例)を対象とした. 対象者の手術状況(インプラントの設置など), 手術から脱臼までの期間(複数回脱臼例は初回脱臼まで), 脱臼動作, 肢位, 脱臼方向, 回数, THA側の股関節可動域(ROM)と股関節周囲筋力(MMT)を調査した. なお, ROMとMMTは入院中の脱臼例と退院後脱臼例が混在しているため, 退院時の評価とした. まず, 各項目の基本統計を求めて特徴を把握し, 次に脱臼時期や脱臼動作, 肢位, 脱臼回数, ROM, MMT間の関連性を各々解析した. 【結果】明らかなインプラントの設置不良例は3例存在した. 脱臼までの平均期間は15.9ヵ月(0~55ヵ月)で, 2ヵ月以内が7例, 6ヵ月以上が8例であった. 後方脱臼は11例で, 脱臼肢位, 動作は, しゃがみ込み(和式トイレでの動作, 立ち上がり時), 椅座位での体幹前屈(冷蔵庫内の物品の出し入れ, 床のものを拾うなど)が圧倒的に多く, 他には, 何らかの作業中に股関節屈曲, 内転, 内旋肢位を強いられた時, 転倒, 靴の着脱が挙げられた. 前方脱臼は4例で, 脱臼肢位, 動作は急激な体幹の伸展や転倒であった. 脱臼回数は10回が1例, 4回が3例, 2~3回が5例, 1回が6例であった. 平均ROMは屈曲99.3゜, 伸展9.3゜, 外転25.7゜, 内転8.1゜で, MMTは内外旋, 外転が低い傾向にあるものの, 平均的に4~5レベルで, 低下の著しい症例は存在しなかった. 脱臼期間を2ヵ月以内の群と6ヵ月以上の群に分けると, 2ヵ月以内の群では, しゃがみ動作や椅座位での動作時に脱臼する者が有意に多かった(Fisherの正確確率検定;p<0.01). 前方脱臼例は全て2回以上脱臼を繰り返していた. その他については, 統計的に有意な関連性はみられなかった. 【考察】脱臼動作, 肢位は, 後方アプローチの禁忌である過度の股関節屈曲を伴う動作が多かった. 特に術後2ヵ月以内の症例が椅座位で体幹前屈するなどの比較的軽微な屈曲動作で脱臼するのは, 軟部組織の修復が不完全であるためと考えた. 複数回脱臼例は本人の不注意が主な原因だろうが, 前方脱臼例は腰椎, 骨盤のアライメントの異常も影響していると推測する. 全体的にROMやMMTは良好であったため, 身体活動が高く不注意度も増すのかもしれない. このような特徴を踏まえて, 術前または術後早期から脱臼予防の指導を行い, 術後期間別に指導内容を変えたり, 前方脱臼の可能性がある例では特別な配慮が必要がある. |
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ISSN: | 0289-3770 |