老人保健施設における行動分析学の枠組みを用いた介護者指導に関する研究-トランスファー介助における介護者指導の効果に関する検討

【目的】老人保健施設においては, 入所者への介助のあり方が非常に重要な意味を持つ. 従って, 介護スタッフに対しては有効な介助指導が施される必要があるが, 現状ではそのような取り組みがなされることは希である. そこで今回, 行動分析学の枠組みに基づいたトランスファーの介助指導を試み効果の検証を行った. 【方法】1. 対象入所者:脳梗塞後遺症にて左半身不全麻痺となった78歳の女性. 2. 対象介護者:介護経験2年目で20歳の准看護師の女性Yと, 介護福祉士で介護経験2年目の22歳の女性N. 3. 導課題および指導目標:ベッドから車椅子に移るまでのトランスァー課題とし, 応用行動分析の基本的な技法...

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Published in理学療法学 Vol. 30; no. suppl-2; p. 86
Main Authors 小林和彦, 辻下守弘, 岡崎大資
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 20.04.2003
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Summary:【目的】老人保健施設においては, 入所者への介助のあり方が非常に重要な意味を持つ. 従って, 介護スタッフに対しては有効な介助指導が施される必要があるが, 現状ではそのような取り組みがなされることは希である. そこで今回, 行動分析学の枠組みに基づいたトランスファーの介助指導を試み効果の検証を行った. 【方法】1. 対象入所者:脳梗塞後遺症にて左半身不全麻痺となった78歳の女性. 2. 対象介護者:介護経験2年目で20歳の准看護師の女性Yと, 介護福祉士で介護経験2年目の22歳の女性N. 3. 導課題および指導目標:ベッドから車椅子に移るまでのトランスァー課題とし, 応用行動分析の基本的な技法を用いた適切な介助が行えるようになることを目標とした. 4. 指導期間および指導場所:A老人保健施設の会議室および対象者の居室にて平成13年8月から平成14年7月に行われた. 5. 実験デザイン:被検者間多層ベースラインデザインを用いた. 6. ベースライン測定項目:1)適切介助数;予め定めた介助手続きに従って介護者の介助が提示された場合を“適切介助”とし, 1回の介助場面における総数をカウントした. 2)不適切介助数;予め定めた介助手続きに従っていない介助が提示された場合を“不適切介助”とし, 1回の介助場面における総数をカウントした. 3)介助機会総数;適切介助数と不適切介助数を加えたものとした. 4)トランスファー介助時間;「起き上がりを促す声がけを行ってから, 対象者が車椅子に移りブレーキを外すまで」の時間. 5)身体接触時間;上記の範囲において, 介助目的にて対象者の身体に接触していた時間. 7. 介護者に対する介入手続き:1)指導1;行動分析の枠組みを用いた行動の捉え方, およびそれに基づく対象者への介助法についての説明を講義形式で行った. 2)プローブ:指導1終了後, 指導効果の判定のための評価を行った. 3)指導2:指導者自身が介護者にモデルを示し, それを参考に介助を行ってもらった. 終了後, 良かった点は強化し, 適当でない所は修正を促した. 7. 結果の処理:以下の式により1セッションあたりの適切介助率および身体接触率を算出してグラフ化した. 適切介助率(RAA)適切介助数/介助機会総数×100. 身体接触率(RMCT)身体接触時間/トランスファー介助時間×100. なお, 2名の観察者間におけるデータの一致率は84.7%であった. 【結果と考察】両介護者共, ベースラインにおいてはRAAは一定に低レベルであり, RMCTは高レベルであった. この傾向は指導1導入後もあまり変わらず, 机上での理解のみでは実践的な応用は困難であることが示唆された. 一方, 指導2を導入すると, RAAの大幅な増加とRMCTの減少が認められた. このことは, 援助力のより少ない介助に移行していることを意味し, 実験デザイン上からも今回の実地指導手続きが有効であったことが示された. 以上のことから, 机上による研修主体の現在の施設研修システムを再考し, 実地指導を導入もしくは重視する必要性が示唆されたと言えよう.
ISSN:0289-3770