大腸肛門病診療に関する法的諸問題

医療に関する国民意識の伸長を背景に,医療に関連した法的争訟は増加している.現在までに,医療過誤防止に関しては,医療安全対策の面から多くの議論が重ねられてきた.ここでは,大腸肛門病診療に関して,医療の質の向上の面から,法的問題点を検討してみたい. 【診断】(1)大腸癌検診:人間ドックにおいて,一般の集団検診よりも高い注意義務を要求した裁判例が少なくない.異常を疑わせる兆候を全て受診者に告知し,診断が確定できない場合には再検査・精査を促す義務が要求されている.(2)便潜血陽性患者:注腸造影と大腸内視鏡検査の適応関係が問題となるが,一般に,注腸造影の読影では,糞塊・腸管の弯曲・骨陰影などと隆起性病変...

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Published in日本大腸肛門病学会雑誌 Vol. 56; no. 9; p. 447
Main Author 古川, 俊治
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本大腸肛門病学会 01.09.2003
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Summary:医療に関する国民意識の伸長を背景に,医療に関連した法的争訟は増加している.現在までに,医療過誤防止に関しては,医療安全対策の面から多くの議論が重ねられてきた.ここでは,大腸肛門病診療に関して,医療の質の向上の面から,法的問題点を検討してみたい. 【診断】(1)大腸癌検診:人間ドックにおいて,一般の集団検診よりも高い注意義務を要求した裁判例が少なくない.異常を疑わせる兆候を全て受診者に告知し,診断が確定できない場合には再検査・精査を促す義務が要求されている.(2)便潜血陽性患者:注腸造影と大腸内視鏡検査の適応関係が問題となるが,一般に,注腸造影の読影では,糞塊・腸管の弯曲・骨陰影などと隆起性病変の鑑別が問題となり,特に,直腸・S状結腸では,ある程度不可避な解剖学的諸条件のため,隆起性病変が見逃されやすい.便潜血陽性患者に対する大腸病変のスクリーニングとして,まず注腸造影を行うか大腸内視鏡を行うかは今日でも医師の裁量であるが,注腸造影で異常が発見されなかった場合には,便潜血検査を再検し,陽性結果が継続するようであれば,大腸内視鏡を行う必要があると考えるべきであろう.(3)大腸癌術後フォローアップ:患者が体調悪化を訴えていたような場合には,その体調変化が癌再発以外の原因によることが明らかでない限り,注腸造影及び大腸内視鏡検査の双方または何れかを実施すべき注意義務があったとされている. 【大腸内視鏡】消化器診療に関わる医事紛争として,大腸内視鏡による医原性穿孔は,最も頻繁なもの一つである.一般的な解決パターンとしては,(1)通常例の単純な観察検査における穿孔では,訴訟では手技的過失が肯定されて有責となる可能性が高く,多くの場合,医療側が責任を認める形で,訴訟に至らずに示談によって解決される.(2)高度癒着など困難例の観察検査における穿孔やホットバイオプシーにおける穿孔では,手技的過失の有無とインフォームド・コンセントが問題となり,事案毎に,示談・訴訟の別,有責・無責の別は異なる,(3)ポリペクトミー,EMRにおける穿孔では,適応基準の範囲内であれば,手技的には不可避の合併症と認められる可能性が高く,インフォームド・コンセント,療養指導の内容と合併症発生に対する監視の問題が争点となり,やはり事案毎に,示談・訴訟の別,有責・無責の別は異なる.大腸内視鏡診療に関する医療過誤の契機としては,(1)内視鏡検査・治療の適応,(2)インフォームド・コンセント,(3)前処置,(4)前投薬,(5)検査・治療手技,(7)偶発症の発見などが挙げられる. 【治療標準化の影響】診療ガイドラインは,医事訴訟において「医療水準」認定の最重要証拠となると考えられる.従って,裁判官による素人判断を排し,診療行為に法的安定性を与え得るという意義の反面,臨床医の臨機応変な判断を事実上拘束し得るという問題点があり,その策定に当たっては,社会的影響への慎重な考慮が必要である. 【外科手術】大腸切除術後の縫合不全は,訴訟に発展した事例が多い.一般に,縫合不全発生のみで医師が責任を負うことは少ないが,縫合不全の早期発見と適切な対処に関する注意義務は厳格に判断されており,慎重な監視と安全な対処に心掛ける必要がある.ドレナージの悪い大腸縫合不全の一般的予後は,縫合不全発症から再手術・ドレナージまでの時間が長い程悪く,12時間以上になるとショックに陥る危険性が高まり,48時間以後に再手術を行っても救命の可能性は極めて少ないとされている.術後管理については,縫合不全を疑うべき所見があるのに患者に経口摂取を続けさせていた事案で過失が問われている.
ISSN:0047-1801
1882-9619
DOI:10.3862/jcoloproctology.56.447