新たな意思伝達手段の獲得における残存機能の利用と導入時期の検討

【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)は進行性の難病であり、症状の進行に合わせた意思伝達手段の確保が重要である。今回、PC操作に視線入力装置Tobbi EyeXの導入を試みた2症例について、導入時期の比較、検討を行ったため報告する。【Tobbi社製Tobbi EyeXについて】入力方式は視線。クリック方法はソフトウェアHearty Aiを使用し、注視や他スイッチ併用の選択が可能。価格は約12000円と比較的安価で、PCに容易に取り付けでき、人種や補正レンズ有無に左右されず、正確で安定したトラッキングが可能。【症例1】〈事例紹介〉50歳代男性。重症度分類5。診断から約1年7ヶ月。レスピレ...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2016; p. 82
Main Authors 古賀 まなみ, 川口 未世, 黒木 一誠, 武田 芳子, 安楽 真由美, 葛島 志保
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2016
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2016.0_82

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Summary:【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)は進行性の難病であり、症状の進行に合わせた意思伝達手段の確保が重要である。今回、PC操作に視線入力装置Tobbi EyeXの導入を試みた2症例について、導入時期の比較、検討を行ったため報告する。【Tobbi社製Tobbi EyeXについて】入力方式は視線。クリック方法はソフトウェアHearty Aiを使用し、注視や他スイッチ併用の選択が可能。価格は約12000円と比較的安価で、PCに容易に取り付けでき、人種や補正レンズ有無に左右されず、正確で安定したトラッキングが可能。【症例1】〈事例紹介〉50歳代男性。重症度分類5。診断から約1年7ヶ月。レスピレーター装着しており発話は不可能。意思伝達は瞬きでのYes-No反応と、下唇でタッチセンサを操作しナースコール及びPC入力(Hearty Ladder)を行っていたが、運動範囲の狭小によりセンサの誤反応が増加していた。胸部不快感等の身体症状に加え、ナースコールを十分に押せない状況から不安感が強く聞かれた。これまでの進行を考慮し、表情筋の機能低下も見越した新たな意思伝達手段の検討が必要と考えられた。〈経過〉入院前よりTobbi EyeXの紹介がされており、本人希望により購入に至る。入院37日目よりTobbi EyeXの操作練習を開始。決定には注視モードを選択。操作方法の理解は良好であったが、身体症状による全身倦怠感や注視によって生じる眼精疲労が強かった。注視時間や感度の調整を行い操作性や入力スピードの向上がみられたが、疲労感は依然として強く、約3ヶ月の入院中計7回のみ実施し退院。在宅スタッフへの申し送りまで至らなかった。【症例2】〈事例紹介〉40歳代男性。重症度分類5。診断から約5年。鼻マスク式BiPAPを装着しており、呼気時のみ発話可能。情報収集やメール等にPCを利用している。PC操作にはNatural Pointとマウスを併用していたが、右示指の運動範囲は数ミリ程度であり、介助者による微調整が必要であった。〈経過〉 Tobbi EyeXは入院前に購入していたが在宅での練習の機会はなく、本人希望により入院28日目より操作練習を開始。操作方法の理解、視線での文字選択はスムーズに可能。文字の決定は注視モードから開始したが眼精疲労が強く、入院32日目よりマウスモードへと変更、疲労感軽減および入力スピード向上を認めた。入院46日目よりソフトの起動方法を指導。自己での操作が可能となり自主練習を開始し、入力スピードも更に向上した。約3ヶ月の入院中計28回実施し退院。退院後の練習継続も意欲的で、在宅スタッフへ申し送りを実施した。【考察】従来の視線入力装置は高価であったが、比較的安価で入手しやすい本装置が開発されたことで、ALS患者にとって入力方式選択の幅が広がり、今回の導入に繋がったと考える。中島は、意思伝達手段の獲得について「現在できることを活かし、タイミングのよい対応を短期間でできるように配慮することが大切であり、また、これにより利用者が当面の見通しを持つことができ、希望が生まれ、それが次への動機付けにつながる」と述べている。症例1では現行の方法が限界に近づいた不安や疲労の多い時期で、連続した練習が困難であった。また、進行が速く、タイミングの遅れから導入困難であったと考える。一方、症例2では確立した意思伝達手段のある不安の少ない時期に、残存機能を利用した練習を行えたことがスムーズな導入に繋がったと考える。以上を踏まえ、視線入力装置の導入には進行状況や症例の精神状態、身体機能を考慮した「残存機能の利用」と「導入のタイミング」が重要であると考える。【倫理的配慮,説明と同意】本発表に際し、本人に十分な説明を行い同意を得た。
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2016.0_82