後方侵入による人工股関節置換術(THA)後に前方脱臼した症例に対するADL指導

【はじめに】THA後の脱臼は、最も予防すべき合併症の一つである。また患者にとって日常生活における脱臼予防の理解は必須である。今回、立位更衣上動作中に前方脱臼したため、再置換術を施行した症例のADL指導を経験した。姿勢、動作の特徴を踏まえ脱臼するに至った考察を含め以下に報告する。【説明と同意】発表に先立ち本症例に説明を行い、紙面にて同意を得た。【症例】70歳代女性。診断名は右THA術後脱臼。2007年に他院にて右変形性股関節に対し後方侵入法によるTHA施行。2年後、立位での前開きシャツ更衣中に前方脱臼し、当院に再置換術目的に入院となる。脱臼時の患者の訴えは「右足が前に飛んでいったような感じ」であ...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2010; p. 220
Main Authors 甲斐 尚仁, 井元  淳, 中野 吉秀, 高宮 尚美
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2010
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2010.0.220.0

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Summary:【はじめに】THA後の脱臼は、最も予防すべき合併症の一つである。また患者にとって日常生活における脱臼予防の理解は必須である。今回、立位更衣上動作中に前方脱臼したため、再置換術を施行した症例のADL指導を経験した。姿勢、動作の特徴を踏まえ脱臼するに至った考察を含め以下に報告する。【説明と同意】発表に先立ち本症例に説明を行い、紙面にて同意を得た。【症例】70歳代女性。診断名は右THA術後脱臼。2007年に他院にて右変形性股関節に対し後方侵入法によるTHA施行。2年後、立位での前開きシャツ更衣中に前方脱臼し、当院に再置換術目的に入院となる。脱臼時の患者の訴えは「右足が前に飛んでいったような感じ」であり、要望は「今後脱臼しないようにしたい」であった。術中所見で臼蓋コンポーネントの設置角度及び骨頭径、ネック径、ステムの前捻角には問題なかった。また整復された骨頭は臼蓋ソケットから動かず緊張度は極めて高かった。【姿勢】再置換術後の立位姿勢は、左足底に比べ右足底を前方に接地し、骨盤後傾・左回旋位、股関節伸展位(右<左)、股関節外旋位(右>左)、胸椎後彎増大、骨盤に対して左大腿骨及び骨頭は前方偏位し、重心は左後方へ偏位していた。【考察】今回脱臼した原因として、術中所見及び本症例の訴えからネックとライナーのインピンジメントによるものが考えられた。本症例の更衣上動作は、左袖に左上肢を通し、身体の後面で右肩関節伸展内旋位、右肘関節屈曲位で右袖を通し、その際体幹を右側屈・左回旋させるため、右股関節伸展・外旋位が強制され脱臼したものと考えられた。また後方重心であり、体幹左回旋により右下肢荷重となるため脱臼のリスクは増加する。前方脱臼に対するADL指導は、一般に下肢を内旋するように指導することが多い。しかし股関節の肢位は寛骨と大腿骨の位置関係で決定されるため、様々な要因により骨盤左回旋量が大きくなる場合は、右股関節伸展、外旋位を強制されやすい。よって立位での前開きシャツ更衣動作は、左下肢を軸とした骨盤右回旋を意識させた。また更衣動作に限らず、右下肢荷重での左側への振り向き動作は脱臼のリスクがあることを繰り返し指導した。【まとめ】今回の経験から、後方重心で骨盤が後傾している症例は、侵入法の違いに関わらず、前後方脱臼肢位についての理解及び立位更衣上動作練習が必要と考えられた。臨床上、更衣下動作の指導に重きをおく傾向にあり、また更衣上動作にて脱臼肢位になることは患者にはイメージしにくいため、下肢の肢位に注意が向きにくくなることも脱臼の一要因になり得ると考えられた。THA術後は、脱臼に対する不安を抱えている患者は多く、また一度脱臼するとトラウマになるため、できる動作を制限してしまう場合も少なくない。よって脱臼予防指導は、セラピストが適切な指導を行っていく必要がある。
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2010.0.220.0