大腿骨頸部骨折患者における地域連携の取り組みと今後の課題
〈緒言〉大腿骨頸部骨折における地域医療連携は、計画病院での急性期治療・リハ・看護が連携病院に転院した後もシームレスに効率的に継続され、維持期の治療やケアにつなげられることを目的に平成19年度から地域完結型医療モデルとして展開されてきている。だが、現在の制度での社会保険事務局に届け出る項目は、計画病院と連携病院における総治療期間や自宅退院率などであり、どのようなADLで退院したかについての報告義務はない。地域リハビリテーションの観点からは、農村などの地方における急速な高齢化率の上昇や、老老介護・独居老人の増加が進む現状を鑑み、住み慣れた社会でQOLの高い生活が受けられる体制を築きあげることが重要...
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Published in | Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 57; p. 367 |
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Main Authors | , , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
2008
一般社団法人 日本農村医学会 |
Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 1880-1749 1880-1730 |
DOI | 10.14879/nnigss.57.0.367.0 |
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Summary: | 〈緒言〉大腿骨頸部骨折における地域医療連携は、計画病院での急性期治療・リハ・看護が連携病院に転院した後もシームレスに効率的に継続され、維持期の治療やケアにつなげられることを目的に平成19年度から地域完結型医療モデルとして展開されてきている。だが、現在の制度での社会保険事務局に届け出る項目は、計画病院と連携病院における総治療期間や自宅退院率などであり、どのようなADLで退院したかについての報告義務はない。地域リハビリテーションの観点からは、農村などの地方における急速な高齢化率の上昇や、老老介護・独居老人の増加が進む現状を鑑み、住み慣れた社会でQOLの高い生活が受けられる体制を築きあげることが重要であり、そのための情報共有が求められている。この観点から、地域連携診療計画書に加え、維持期における歩行やADLなどの生活状況が計画病院や連携病院で共有できることを目的として地域連携シートを作成した。その概要を紹介し、運用開始前後における大腿骨頸部骨折患者の指標の変化を検討するとともに、合同情報交換会における運用法について検討したので報告する。
〈対象〉平成19年度に退院した大腿骨頸部骨折患者116名(平均年齢80.2±8.76歳)。
〈方法〉対象を地域連携診療計画書に基づく連携医療が開始される前に退院した84名(連携前群)と連携診療開始後に退院した32名(連携後群)にわけ、それぞれ入院期間、退院先について比較検討した。また、計画病院と連携病院との情報交換会における地域連携シート運用の効果と課題について考察した。
〈結果〉1)計画病院での入院期間:連携前群(N=84)37.6±19.1日、連携後群(N=32)44.2±20.4日。2)計画病院からの自宅退院例の検討:連携前群(N=38)(自宅退院率31.9%、入院期間39.2日、平均年齢78.3歳)、連携後群(N=14)(自宅退院率43.8%、入院期間34.5日、平均年齢77.8歳)で、連携後では、入院期間は短縮し、自宅退院率は向上した。3)計画病院から回復期リハ病院(連携病院)への転院例の検討:連携前群(N=23)(転院率27.4%、入院期間45.3日、平均年齢82.6歳)、連携後群(N=10)(転院率31.3%、入院期間59.2日、平均年齢80.6歳)で、連携後では、連携病院転院率は増加したが、計画病院での入院期間の短縮にはつながっていない。5)地域連携シートにおける指標:受傷前の生活、計画病院退院時、回復期病院退院時、維持期において、(1)modified Rankin Scale、(2)歩行機能(屋外独歩、屋外杖歩行自立、屋内歩行自立、屋内介助歩行、屋内車椅子移動自立、屋内車椅子移動介助、寝たきり)、(3)生活場所(自宅・親族宅、居住系施設、老人保健施設、療養型病院、回復期病院、一般病院)をそれぞれ記載し、急性期から維持期まで情報を共有できるようにした。6)情報交換会における運用効果の検討:連携開始前は、転院後の情報は少なかったが、連携開始後は、回復期リハ病院での歩行能力・ADLの改善状況を共有することが可能となり、計画病院での治療や訓練へのフィードバックができつつある。〈考察〉地域連携診療計画書に地域連携シートを追加することにより受傷前から維持期における歩行能力や生活場所などの指標が共有可能となり、計画病院と回復期病院との間の医療連携が円滑になった。しかし、総治療期間の短縮や最終的な自宅退院率に関しては、今後の症例の蓄積が必要である。 |
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ISSN: | 1880-1749 1880-1730 |
DOI: | 10.14879/nnigss.57.0.367.0 |