軽度の心悸亢進を主訴とした高齢者肺血栓塞栓症の1例

症例86歳, 男性. 前立腺癌術後7年. 右下肢の浮腫を主訴に入院. 入院時, 右下肢の軽度の浮腫および皮膚温の低下を認めた. 前立腺癌は, 被膜を越えた浸潤および胸腰椎への転移を認めた. 入院中歩行時に突然に心悸亢進が出現, 頻脈および頻呼吸を伴った. 心電図は洞性頻脈で, I誘導のS波, V1~V3誘導でR波の減高, V1~V5誘導でT波の逆転を認めた. 右心カテーテル検査で軽度の肺高血圧および右心負荷を認めた. 血清諸酵素値の上昇は認めなかった. 肺血栓塞栓症を疑い肺血流スキャンを施行, 右上および中肺野に血流欠損部を認めた. 急性期に urokinase の少量投与を行い, 以後 ti...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 23; no. 6; pp. 611 - 615
Main Authors 武内, 寛, 野崎, 太矩祠, 妻鳥, 昌平, 高野, 照夫, 中野, 博司, 高田, 加寿子, 盤若, 博司, 南, 順文, 本多, 一義, 大庭, 建三
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 30.11.1986
Subjects
Online AccessGet full text
ISSN0300-9173
DOI10.3143/geriatrics.23.611

Cover

More Information
Summary:症例86歳, 男性. 前立腺癌術後7年. 右下肢の浮腫を主訴に入院. 入院時, 右下肢の軽度の浮腫および皮膚温の低下を認めた. 前立腺癌は, 被膜を越えた浸潤および胸腰椎への転移を認めた. 入院中歩行時に突然に心悸亢進が出現, 頻脈および頻呼吸を伴った. 心電図は洞性頻脈で, I誘導のS波, V1~V3誘導でR波の減高, V1~V5誘導でT波の逆転を認めた. 右心カテーテル検査で軽度の肺高血圧および右心負荷を認めた. 血清諸酵素値の上昇は認めなかった. 肺血栓塞栓症を疑い肺血流スキャンを施行, 右上および中肺野に血流欠損部を認めた. 急性期に urokinase の少量投与を行い, 以後 ticlopidine を投与した. 血流欠損部は経過とともに縮小した. 下肢静脈スキャンで深部静脈血栓症を認めた. 肺血栓塞栓症の発生頻度は, 加齢と伴に増加するが, その生前の診断率はいまだ低い. 本症の自, 他覚所見および検査所見の非特異性に加え, 老年者の多病性がその診断を困難にする. 深部静脈血栓症の risk を有する老年者が急性の非特異的な心肺系の症状を呈した場合は, 本症を考慮する必要がある.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.23.611