保存自己血輸血
輸血に伴う合併症の予防と近年の保存血液や血液成分製剤の需要増加による慢性的な血液不足への対応の一助として自己血輸血は重要な位置をしめる. 現在行われている自己血輸血の方法は, (1)保存自己血輸血法(冷蔵および冷凍), (2)術中血液回収式自己血輸血法, (3)血液希釈式自己血輸血法の3法に大別される. 我々はこの中で最も簡便で安価な冷蔵保存自己血輸血法を整形外科の選択手術のケースに行っているのでその概略を述べる. 自己血輸血で行った手術は大部分が脊椎脊髄疾患, 股関節疾患の手術であるが, 特殊なものを除き1,000ml前後の輸血量でできるので冷蔵保存自己血輸血法でカバーできる. 自己血輸血の...
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Published in | 日本輸血学会雑誌 Vol. 33; no. 1; pp. 69 - 70 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本輸血学会
1987
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Online Access | Get full text |
ISSN | 0546-1448 |
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Summary: | 輸血に伴う合併症の予防と近年の保存血液や血液成分製剤の需要増加による慢性的な血液不足への対応の一助として自己血輸血は重要な位置をしめる. 現在行われている自己血輸血の方法は, (1)保存自己血輸血法(冷蔵および冷凍), (2)術中血液回収式自己血輸血法, (3)血液希釈式自己血輸血法の3法に大別される. 我々はこの中で最も簡便で安価な冷蔵保存自己血輸血法を整形外科の選択手術のケースに行っているのでその概略を述べる. 自己血輸血で行った手術は大部分が脊椎脊髄疾患, 股関節疾患の手術であるが, 特殊なものを除き1,000ml前後の輸血量でできるので冷蔵保存自己血輸血法でカバーできる. 自己血輸血の対象者は, 全身状態に問題がなく, 採血前にHb11g/dl以上のものとする. 採血の方法は第1回の採血を200gとし, 1週後にこの200gを輸血してもどし, 同時に400gを採血する. さらに1週後にこの400gを輸血して800gを採血する. 各採血の前日には血算を行い, 採血の可否を判断する. これが標準的な方法であるが, 高齢者を除きHb13g/dl以上のものは, 第1回の採血を400gから開始し, 2回目以降は400gをもどし輸血して800gを採血する. この方法だと2~5回の採血で800~2,000gの自己保存血を術前に準備できる. 冷蔵保存血の有効期限が3週間なので, このあたりが貯血の限度である. 自己血輸血を予定した場合は採血前より術後貧血が回復するまで鉄剤の投与を続ける. 1980年より1986年9月までの当科での手術件数は2314件で, このうち輸血を行ったのは312例, 13.5%である. このうちの自己血輸血は144例で手術時輸血例の46.2%である. 自己血輸血のみですんだのは110例で, 自己血輸血例の76.4%である. 自己血輸血例の年齢は13~74歳にわたるが50歳台, 60歳台の例が多い. 貯血量は800~1,200gの例が85%をしめる. 800~1,200gまでの貯血ならば1週間毎の採血でも, 男女, 年齢を問わず, 大部分の例で, 採血時や術前のHb値は10g/dl以下にならず, Hb値が下がった例も1週間採血をスキップすれば採血可能な値にもどる. 採血により大きな問題は生じていないが, 実施上の注意点としては, 採血中の脱血ショックがある. 800gの採血が3~4分の短時間に行われるので, 採血実施に先立ち, 輸液やもどし輸血をしておかなければならない. また2バッグ以上の採血では静脈穿刺を1度ですませるため先に採血したチューブに他のバッグの針を穿刺して行うと都合がよい. また採血中はバッグの撹拌を充分に行わないと凝血塊を生じて輸血時に使用できなくなる. 冷蔵保存自己血輸血法は保存期間が短いという制約はあるが, 特別な設備や技術を要することなく, 簡便安価に行える方法であり, 全身状態に問題のない選択手術の際に有用な方法と考える. |
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ISSN: | 0546-1448 |