けいれん準備性獲得過程に対する諸因子(内因性抗酸化物質および薬剤)の検討

演者はこれまで小児てんかん患児の, 脳脊髄液中のサイトカインやプテリン系化合物(ネオプテリン・ビオプテリン)および内因性抗酸化物質(NO, グルタチオン, カタラーゼ, SOD(superoxide dismutase)など)の動態を分析してきた. こうした研究の過程で「痙攣の病態に脳内酸化ストレスが密接に関与している」ことを明らかにした. てんかん患者が痙攣(ニューロンの病的過剰放電)を発現する機序の詳細は現在においてなお不明であるが, 外傷・炎症・出血の後遺症として(二次性てんかん)ではなく, 年齢・発達依存性に主として小児に発症する特発性てんかんについて脳内酸化ストレスとの関連を検討した...

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Published in日本医科大学医学会雑誌 Vol. 3; no. 4; p. 222
Main Author 川上康彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 01.10.2007
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Summary:演者はこれまで小児てんかん患児の, 脳脊髄液中のサイトカインやプテリン系化合物(ネオプテリン・ビオプテリン)および内因性抗酸化物質(NO, グルタチオン, カタラーゼ, SOD(superoxide dismutase)など)の動態を分析してきた. こうした研究の過程で「痙攣の病態に脳内酸化ストレスが密接に関与している」ことを明らかにした. てんかん患者が痙攣(ニューロンの病的過剰放電)を発現する機序の詳細は現在においてなお不明であるが, 外傷・炎症・出血の後遺症として(二次性てんかん)ではなく, 年齢・発達依存性に主として小児に発症する特発性てんかんについて脳内酸化ストレスとの関連を検討した報告は少なく, 未知の領域である. 一方, てんかんを発症していない健常小児に対し抗ヒスタミン剤, テオフィリン製剤などを使用した際の薬剤誘発性痙攣が注目され注意が払われている. だが日常診療において使用頻度の高いこれらの薬剤の痙攣発症機序については, 発作間欠期脳波異常の有無, 血中濃度中毒域との関連性など, 未解決の問題点が多い. 演者は, 以上2点, すなわち「痙攣の発現と脳内酸化ストレスとの関連」および「薬剤誘発性痙攣の発症機序」についてさらに詳細な検討をめざしている. しかし, 上記2点を明らかにするためのサンプルをヒト痙攣患児の髄液検体に求めることは倫理的問題を含め現実的に不可能であり, ここでヒト検体を用いた臨床研究の限界に直面した. そこで「出生時には痙攣を起こさないが, 発育・成熟に伴って(8~10週齢頃)100%てんかんを発症するミュータントマウス」(ELマウス)という, てんかんモデル動物を使用することにした. コントロールとしては, ELマウスの母系(ddYマウス)を使用する. 演者はこれらを用いて, てんかん発症前から週齢・発達経過を追って脳内抗酸化物質を分析することにより, てんかん発症に対する影響を検討した. グルタチオンはその代謝サイクルから「酸化型」と「還元型」が存在する. 脳内のこれらのパラメーター測定には, けいれん発作起始部位である頭頂皮質, およびけいれん発作伝搬全般化部位である海馬の2ヵ所を用いて10% honogenateを作成しサンプルとした. 発表ではELマウスとddYマウスの, 各部位における経時的変化を提示するが, ELマウス頭頂皮質において酸化型グルタチオンが, またELマウス海馬においてグルタチオン関連酵素のひとつであるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)が, いずれもけいれん発作発現以前の幼弱期から, up-regulateされているという結果を得た. これはフリーラジカルによる組織障害がてんかん原性獲得に大きく関与することを示唆する. この所見は, 現在「抗痙攣薬」しか存在しないてんかんの内科的治療の選択肢に, 「抗酸化治療」の可能性を開拓する端緒となり得ると思われる. また, 薬剤誘発性痙攣についても, ヒトにおける研究は発症後の後方視的疫学調査などが限界であると考えられ病態生理学的臨床研究は現実的に困難な上, 痙攣を誘発するとされている薬剤はいずれも臨床的に使用頻度が非常に高いものである. そのためモデル動物を使用した研究は有意義である. 演者はヒトにおいて痙攣誘発する可能性のある薬剤を上記マウスに投与し, 痙攣の有無を観察するとともに, 脳波を測定して電気生理学的検討をしている. マウス用の特殊な脳波測定装置は共同研究施設である日本獣医生命科学大学健康環境学教室において独自に開発したものであり, これを利用することによる検討はきわめて学術的価値が高いと考えている. この検討は現在進行中であり, 進捗状況を報告するが, 本来てんかん原性をもたないddYマウスに薬剤を投与したところてんかん性突発波に近い波形が測定された. さらに例数を重ねて薬剤誘発性痙攣モデルとしての実験系確立をめざしている.
ISSN:1349-8975