高齢者虐待が関連した褥瘡の実態報告

<はじめに>わが国では高齢者虐待に関する概念や定義について, 今のところ明確なものはなく高齢者虐待は児童虐待と比べ認識は低い状況にある. 医療者が虐待を確信しても実際には家族介入できない状況や地域におけるサポート体制が整っていないのが現状である. 平成15年・16年に褥瘡の治療ケアを行なった当院の入院患者135名について調査した結果, 9名の患者が褥瘡発生の背景に虐待が関連している事実が明らかになった. この9名の患者の褥瘡の状態および虐待について報告する. <症例紹介>患者の年齢は67歳から98歳で男性4例, 女性5例であった. 既往には活動状況に影響を及ぼす脳梗塞後...

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Published in日本農村医学会雑誌 Vol. 54; no. 3; p. 577
Main Authors 近藤貴代, 大井初江, 山岸庸太
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本農村医学会 01.09.2005
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ISSN0468-2513

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Summary:<はじめに>わが国では高齢者虐待に関する概念や定義について, 今のところ明確なものはなく高齢者虐待は児童虐待と比べ認識は低い状況にある. 医療者が虐待を確信しても実際には家族介入できない状況や地域におけるサポート体制が整っていないのが現状である. 平成15年・16年に褥瘡の治療ケアを行なった当院の入院患者135名について調査した結果, 9名の患者が褥瘡発生の背景に虐待が関連している事実が明らかになった. この9名の患者の褥瘡の状態および虐待について報告する. <症例紹介>患者の年齢は67歳から98歳で男性4例, 女性5例であった. 既往には活動状況に影響を及ぼす脳梗塞後遺症や認知症, アルコール依存による慢性肝障害などがあり自立度はC1・C2で介護度が高い状況であった. 入院の動機は食欲不振による脱水や低栄養, 尿路感染による発熱, 肺炎などであり, 主な介護者は配偶者1例, 嫁1例, 子孫6例, 兄妹1例であった. <褥瘡の状態および虐待について>虐待の種類は, 世話の放棄(ネグレクト)が8例と最も多く, 次いで社会・経済的虐待4例, 身体的虐待1例でこれらは2から3種類重複した状態であった. 褥瘡発生に関連した虐待の状況は食事や水分を与えずの脱水や低栄養, 排泄時や体位変換時の暴力行為, 体圧分散寝具使用の拒否や実際に体位変換やおむつ交換がされていないことによる重度の皮膚障害があった. また1年以上入浴していないなど, いずれも排泄物による身体汚染が著しく, 悪臭が強い状態での来院であり, 褥瘡の深さはstage IIIからIVと重度の褥瘡で多発している傾向にあった. 老老介護による過労の現状や家族がお金をかけたくないという事実, 介護保険の申請の拒否など家庭内のことに関われない状況が存在した. <考察・まとめ>在宅で発生した9名の患者の褥瘡発生の背景には高齢者虐待が関連していた. いずれも介護度が高い患者で, 主な虐待は世話の放棄であり褥瘡はstage III以上で多発し重度の褥瘡に結びつく傾向にあった. 介護保険導入により, これまで表面化されなかった家族内の問題など少しずつではあるが明らかになってきたが, 実際には複雑な人間関係や家族間の問題が存在し医療者が介入できない状況も少なくない. 少子高齢化・核家族・共働きの現状から介護不足の問題は深刻であり, 今後は在宅における褥瘡対策を重視し家族関係や介護力の評価を強化する必要がある. また高齢者虐待と褥瘡発生の関連性を視野に入れた地域での取り組みが重要である.
ISSN:0468-2513