健診への生活習慣病関連遺伝子検査の導入
生活習慣病は複数のリスクファクターの相加・相乗作用により発症する. 特定の遺伝子変異もそのリスクファクターになることが近年明らかにされており, これからの健診では遺伝子解析の結果を利用して生活習慣を改善し, 生活習慣病を未然に防ぐことも重要と思われる. 本研究では肥満(β3アドレナリン受容体), 飲酒(アルデヒド脱水素酵素), 喫煙による肺がん発症[CYP1A1, グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)]に関する遺伝子の変異の有無を受診者に知らせ, その後の体重や生活習慣の変化を追跡した. 対象は広島総合病院の35才以上の職員の内, 遺伝子検査の同意が得られた145人(男性49人, 女性9...
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Published in | 日本農村医学会雑誌 Vol. 54; no. 3; p. 496 |
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Main Authors | , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本農村医学会
01.09.2005
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ISSN | 0468-2513 |
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Summary: | 生活習慣病は複数のリスクファクターの相加・相乗作用により発症する. 特定の遺伝子変異もそのリスクファクターになることが近年明らかにされており, これからの健診では遺伝子解析の結果を利用して生活習慣を改善し, 生活習慣病を未然に防ぐことも重要と思われる. 本研究では肥満(β3アドレナリン受容体), 飲酒(アルデヒド脱水素酵素), 喫煙による肺がん発症[CYP1A1, グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)]に関する遺伝子の変異の有無を受診者に知らせ, その後の体重や生活習慣の変化を追跡した. 対象は広島総合病院の35才以上の職員の内, 遺伝子検査の同意が得られた145人(男性49人, 女性96人)で, 検査は当院臨床研究検査科で行なった. 受診者の平均年齢は男性45.7才, 女性45.3才であった. 個人宛の報告書には各人の遺伝子型とその解説および生活習慣改善のためのコメントを載せた. β3アドレナリン受容体遺伝子解析では正常群87人, 変異群58人であった. 変異群の人は正常群に比べ, 基礎代謝量が1日約200kcal少ないため, 肥満になると減量しにくい. 1年後, 追跡可能であった126人中, 正常群で48%, 変異群で42%の人の体重が減少した. BMI(体格指数)25以上の肥満者で体重減少が見られたのは正常群で63%, 変異群で40%であった. アルデヒド脱水素酵素2の遺伝子型は1/1型(お酒に強い), 1/2型(強くはないが飲める), 2/2型(弱くてまるで飲めない)に分類され, それぞれ76, 61, 8人で日本人における各遺伝子型の頻度とほぼ同じ結果が得られた. 1/2型では細胞障害性のあるアセトアルデヒドが1/1型に比べ蓄積しやすいため, 常用的な飲酒で1/1型に比べ食道がん, 咽頭がんの頻度が増すことが知られている. 追跡可能であった1/2型の常用飲酒者14人のうち, 1年後には2人が飲酒量を減少させた. たばこの煙に含まれるベンツピレン等の発がん物質はCYP1A1酵素により, 更に発がん性の強い物質に変換される. 一方, これはGSTにより解毒される. CYP1A1遺伝子の多型およびGSTM1遺伝子の有無で, たばこによる肺扁平上皮がん発症の危険度が異なる. 遺伝子解析結果を受けて, 喫煙者18人中3人が禁煙あるいは喫煙本数を減少させた. また, 非喫煙者85人中10人は家族の喫煙, 周囲の喫煙に注意した. 遺伝子結果報告後のアンケート調査で, 大部分の人は遺伝子検査を受けて良かったと答え, その理由として生活習慣の見直しができる, 自分の身体に興味が持てたとの意見が多かった. 1年後, 実際に行動変容に結びついたのは約1/3の人であり, ほぼ同数の人は結果を知り生活改善の必要性を感じるがなかなか行動に結びつかないと述べた. 院内職員健診で生活習慣病関連の遺伝子検査はおおむね好評であり, 生活習慣改善のための行動変容の契機になった. |
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ISSN: | 0468-2513 |