歯髄創傷治癒および歯髄再生過程におけるリン酸トランスポーター (Pit-1) の免疫組織学的解析

「抄録」 目的: リン酸は, 骨や象牙質の石灰化に関与する. 石灰化プロセスにおいて, 血漿中の無機リン酸(Pi)濃度だけでなく細胞内外のPi濃度も重要であるが, その輸送メカニズムは不明なままである. Piの取り込みは石灰化の必要条件であり, リン酸トランスポーターがその一端を担っている. その一つPit-1は, 歯の石灰化に関与する可能性がある. 本研究では, Pit-1のラット臼歯および切歯における局在を観察するとともに, その発現と歯髄創傷治癒および歯髄再生との関連性を明らかにすることを目的として, 免疫組織学的および遺伝学的解析を用いて検討した. 材料と方法: 5, 8, 9週齢の雄...

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Published in日本歯科保存学雑誌 Vol. 67; no. 3; pp. 165 - 173
Main Authors 大倉直人, BALDEON GUTIERREZ Rosa Edith, 高原信太郎, GOMEZ KASIMOTO Susan Kiara, 枝並直樹, 井田貴子, 外園真規, 永田量子, 竹中彰治, 吉羽邦彦, 吉羽永子, 野杁由一郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本歯科保存学会 30.06.2024
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ISSN0387-2343

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Summary:「抄録」 目的: リン酸は, 骨や象牙質の石灰化に関与する. 石灰化プロセスにおいて, 血漿中の無機リン酸(Pi)濃度だけでなく細胞内外のPi濃度も重要であるが, その輸送メカニズムは不明なままである. Piの取り込みは石灰化の必要条件であり, リン酸トランスポーターがその一端を担っている. その一つPit-1は, 歯の石灰化に関与する可能性がある. 本研究では, Pit-1のラット臼歯および切歯における局在を観察するとともに, その発現と歯髄創傷治癒および歯髄再生との関連性を明らかにすることを目的として, 免疫組織学的および遺伝学的解析を用いて検討した. 材料と方法: 5, 8, 9週齢の雄性Wistar系ラットを用いて, 断髄による歯髄創傷治癒モデルあるいはリバスクラリゼーションモデルを作製した. 断髄後1, 3, 5, 7, 14日目およびリバスクラリゼーション後7, 28日目に観察した. 処置歯に対してPit-1, Nestin, ならびにα-smooth muscle actin(αSMA)に対する免疫組織染色を行った. 断髄処置歯のPit-1 mRNA発現についてreal-time PCR解析した. 統計解析はOne-way ANOVAによって統計学的有意差を評価した. 結果: Pit-1陽性反応は, 正常なラット臼歯歯髄の象牙芽細胞, 血管内皮細胞, 歯根膜, ならびに上顎骨の骨膜に沿って検出された. また, 切歯歯髄では成熟した象牙芽細胞で検出され, 免疫蛍光二重染色では, 象牙芽細胞マーカーのNestinや血管周皮細胞マーカーのαSMAとの二重陽性反応を検出した. 断髄処置後7日目までPit-1の陽性反応は血管周囲以外では検出されず, 14日後に象牙芽細胞様細胞で検出した. また, real-time PCR解析では, 術後1~7日目までSlc20a1(Pit-1をコードした遺伝子)の発現が著しく減少し, 14日目には正常時と有意差はなかった. リバスクラリゼーション後のPit-1陽性反応は, 7日目では根尖周囲の歯髄および骨膜・歯根膜組織と血管で検出し, 28日後には骨膜および血管でのみ検出された. 結論: ラット臼歯および切歯の歯髄組織においてPit-1は特異的な局在性を示し, 歯髄組織でリン酸輸送経路の存在が示唆された. また, Pit-1が, 断髄後の歯髄創傷治癒や修復象牙質形成, ならびにリバスクラリゼーション後の歯髄再生に関与している可能性が示された.
ISSN:0387-2343