総括-伴侶動物臨床における遺伝性疾患

今までも動物の遺伝性疾患が無かった訳でも, 知られていなかった訳でもないが, この10年余の間に動物医療(産業動物も含めて)におけるその注目度は飛躍的に増大し, 小動物(内科, 外科), 牛, 馬の臨床教科書には必ず遺伝性疾患の長いリストが掲載されるようになった. 注目度が増大した要因は複雑であるが, 私は診断能力の飛躍的な向上により診断可能な疾患が多くなり, その中には品種特有の疾患すなわち遺伝性疾患が多く認められるようになったことが最大の要因と推測している. 明確な診断がつけば, 遺伝性が疑われる疾患でも闇から闇へ葬らなくともよい, あるいは葬るべきでないと考える人が増え, さらにリストは...

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Published in動物遺伝育種研究 Vol. 34; no. 1; p. 90
Main Author 小川博之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本動物遺伝育種学会 01.06.2006
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ISSN1345-9961

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Summary:今までも動物の遺伝性疾患が無かった訳でも, 知られていなかった訳でもないが, この10年余の間に動物医療(産業動物も含めて)におけるその注目度は飛躍的に増大し, 小動物(内科, 外科), 牛, 馬の臨床教科書には必ず遺伝性疾患の長いリストが掲載されるようになった. 注目度が増大した要因は複雑であるが, 私は診断能力の飛躍的な向上により診断可能な疾患が多くなり, その中には品種特有の疾患すなわち遺伝性疾患が多く認められるようになったことが最大の要因と推測している. 明確な診断がつけば, 遺伝性が疑われる疾患でも闇から闇へ葬らなくともよい, あるいは葬るべきでないと考える人が増え, さらにリストは長くなる. 国内の伴侶動物診療に携わる獣医師の間では, 遺伝性疾患に対する関心が必ずしも高くないのが現状であるが, このフォーラムでは, 臨床遺伝研究会が過去10年間に牛の遺伝性疾患に関して蓄積してきた経験をもとに, また分子生物学の進歩を追い風に, 伴侶動物の遺伝性疾患と取り組む枠組みを作ろうと考えて企画した. 伴侶動物の遺伝性疾患には, 飼い主の意向, 繁殖家の考え方や知識, ケンネルクラブの熱意, 登録事業の信頼性, 獣医師の診断能力, 研究者の先見性や情報収集能力, 臨床獣医師と研究者の連携, 検査機関の協力, 遺伝子情報の取り扱い, 遺伝相談, 研究等に対する社会からの人的, 経済的支援など, 多くの問題が関わってくる. 本講演では, これらの要因を整理し, 今後の進路を考える糧にしたい.
ISSN:1345-9961