III度の熱中症がTorsade de Pointes発生の誘因になったと考えられた, 後天性QT延長症候群を有する高齢女性の1例
《Abstract》症例は86歳女性. 2型糖尿病, 胃癌術後, およびてんかん発作の診断で近医にて継続加療されていた. 家人の話では, ここ数年以内に意識を失って倒れたことが2~3度あったとのことである. 20XX年8月初旬, 炎天下の中(当日の最高気温は37℃)自宅の庭で倒れているところを発見され, 当院へ救急搬送された. 救急隊到着時は, 意識障害のために会話不能で失禁状態, 血圧141/67mmHg, 脈拍107/分, 体温は41.5℃(腋窩温)と高体温を呈していた. また救急隊により記録されたAEDの履歴では, 数秒間持続して自然停止する倒錯型心室頻拍(Torsade de Poin...
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Published in | 心臓 Vol. 56; no. 11; pp. 1047 - 1058 |
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Main Authors | , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本心臓財団・日本循環器学会
15.11.2024
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ISSN | 0586-4488 |
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Summary: | 《Abstract》症例は86歳女性. 2型糖尿病, 胃癌術後, およびてんかん発作の診断で近医にて継続加療されていた. 家人の話では, ここ数年以内に意識を失って倒れたことが2~3度あったとのことである. 20XX年8月初旬, 炎天下の中(当日の最高気温は37℃)自宅の庭で倒れているところを発見され, 当院へ救急搬送された. 救急隊到着時は, 意識障害のために会話不能で失禁状態, 血圧141/67mmHg, 脈拍107/分, 体温は41.5℃(腋窩温)と高体温を呈していた. また救急隊により記録されたAEDの履歴では, 数秒間持続して自然停止する倒錯型心室頻拍(Torsade de Pointes; TdP)の散発が認められた. 当院へ搬送後, III度の熱中症の診断で加療が開始されたが, 救急搬送時に記録された心電図ではHR 126の洞性頻脈とQT時間の延長(QT 411msec, QTc 595msec)を認めた. 熱中症に対して治療開始後に体温は36℃台まで速やかに低下するとともにQT時間の延長も改善して, TdPは全く出現しなくなった. QT延長に関連した遺伝子検査ではSCN5Aに5963 T>G(Leu 1988 Arg) missense variantが認められたが, このvariantはアレル頻度も比較的高く, 病的なvariantである可能性は低いと考えられた. 本症例において, 高体温時に生じたTdPの発生メカニズムに関しては不明であるが, 通常状態では起こりえない高度な高体温, hERGチャネルに多少なりとも影響を及ぼす薬剤の内服などの複合的な要因が存在していたことは事実であり, これらのいずれかがTdPの発生メカニズムの一要因になっていた可能性は否定しきれない. 異常気象に端を発したと考えられる夏季の気温上昇により熱中症に罹患する患者も増加している昨今において, 高体温が致死的不整脈の誘発因子となり得るという観点においても, 教訓的な症例であると考え報告する. |
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ISSN: | 0586-4488 |