ヒトはなぜ病気になるのか進化生物学から見た「よりよく生きるための知恵」
従来の医学は, 健康であることを「正常な状態」とし, それに対して, 病気や不都合を, いわば降ってわいた「異常な状態」と考え, なんとか正常な状態に戻すことを探ってきた. 人間は誰しも健康でありたいと願うものであり, 病気その他の不都合が生じれば, 一刻も早く直りたいと願うものである. その望みをなるべく広く, 早く満足させることは, 医学の大きな目標であった. しかし, 近年の「生活習慣病」という言い方にも現れているように, さまざまな病気や不愉快な状態は, 人間が生きていることの全体の中で理解せねばならず, 「異常な状態」を切り離して対処しようとするのは無理, または誤りなのだろう. そ...
Saved in:
Published in | 心身健康科学 Vol. 4; no. 2; p. 128 |
---|---|
Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本心身健康科学会
30.08.2008
|
Online Access | Get full text |
ISSN | 1882-6881 |
Cover
Summary: | 従来の医学は, 健康であることを「正常な状態」とし, それに対して, 病気や不都合を, いわば降ってわいた「異常な状態」と考え, なんとか正常な状態に戻すことを探ってきた. 人間は誰しも健康でありたいと願うものであり, 病気その他の不都合が生じれば, 一刻も早く直りたいと願うものである. その望みをなるべく広く, 早く満足させることは, 医学の大きな目標であった. しかし, 近年の「生活習慣病」という言い方にも現れているように, さまざまな病気や不愉快な状態は, 人間が生きていることの全体の中で理解せねばならず, 「異常な状態」を切り離して対処しようとするのは無理, または誤りなのだろう. それは, ヒトが進化の産物であり, 病気その他, 外界の環境ストレスに対するからだの反応も, 進化の産物としてできあがってきたものだからである, ヒトとはどんな道筋をたどって進化してきた生き物なのか, ということを知り, それを考慮して生活を設計すれば, 比較的低コストでストレスを回避できるのではないだろうか?そのような考えに基づいてヒトの体と健康を考える医学は, 進化医学と呼ばれている. 直立二足歩行する人類は, チンパンジーとの共通祖先から, およそ600万年前に分かれた. その後, およそ250万年前にサバンナに進出し, 脳が大きくなり始め, ホモ属と呼ばれるものが出現した. 私たち, ホモ・サピエンスは, およそ20万年前にアフリカで出現した. 霊長類はもともと果実食を中心とする植物食の動物であるが, ヒトは, サバンナに進出してから肉類を多く摂取するようになり, 他の霊長類には見られない食性に変化した. 人類は, その進化史の99パーセントを, 狩猟採集民として暮らしてきたが, およそ1万年前に農耕と牧畜を始め, 定住生活に移行した. それからは, 都市文明が起こり, 近年の科学技術文明は, およそ50年の間に先進国の人々の生活を大幅に変えた. 本講では, このようなヒトの進化史を概観したのち, ヒトのからだがストレスに対してどのように反応するようにできているのか, 現代の先進国の文化的, 社会的環境は, 私たちにどのような新たなストレスをもたらしているのか, それにはどのように対処したらよいのか, いくつかの例をあげて検討してみたい. これはとても難しい問題で, なにをよしとするかの価値観も混じる話題である. 答えは1つではないだろうが, 議論の材料を提供できればと思う. |
---|---|
ISSN: | 1882-6881 |