神経ブロック 上腹部内臓痛に対する内臓神経ブロック

近年, WHOがん疼痛治療指針の普及に伴い当院でもがん性疼痛に対する神経ブロックの施行率が低下しつつあるのが現状であるが, 全身状態が比較的良好な早期に神経ブロックを行っておけばそれ以後の鎮痛薬の使用量を減量することも可能であるので, われわれは適応があれば神経ブロックを行い, 残った痛みに対しWHOがん疼痛治療指針による疼痛管理を行うことを基本方針としている. 上腹部臓器の悪性腫瘍による腹痛(内臓痛)には腹腔神経叢ブロック, 内臓神経ブロックがよい適応で, 患者の全身状態が比較的良好な時期に行えば非常に有効な鎮痛手段となる. しかし, 末期で全身状態が悪化している症例に対してこれらのブロック...

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Published in日本ペインクリニック学会誌 Vol. 10; no. 3; p. 303
Main Authors 佐伯 茂, 宗像和彦, 小川節郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本ペインクリニック学会 25.06.2003
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ISSN1340-4903

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Summary:近年, WHOがん疼痛治療指針の普及に伴い当院でもがん性疼痛に対する神経ブロックの施行率が低下しつつあるのが現状であるが, 全身状態が比較的良好な早期に神経ブロックを行っておけばそれ以後の鎮痛薬の使用量を減量することも可能であるので, われわれは適応があれば神経ブロックを行い, 残った痛みに対しWHOがん疼痛治療指針による疼痛管理を行うことを基本方針としている. 上腹部臓器の悪性腫瘍による腹痛(内臓痛)には腹腔神経叢ブロック, 内臓神経ブロックがよい適応で, 患者の全身状態が比較的良好な時期に行えば非常に有効な鎮痛手段となる. しかし, 末期で全身状態が悪化している症例に対してこれらのブロックを行うと, 急激な循環動態の変動が起こり得るため, その適応に関しては十分な配慮が必要である. われわれの施設では手技的にも比較的容易であることから内臓神経ブロックを好んで用いている. 内臓神経ブロックの適応についてはあらかじめ疼痛の性質, すなわち, 患者の訴えている痛みが内臓痛であるか体性痛であるかを十分に把握しておくことが重要である. そして試験的に胸部硬膜外ブロックあるいは局所麻酔薬による内臓神経ブロックを行って患者の腹痛が軽減もしくは消失することを確認しておかなければならない. 内臓神経ブロックの適応と判断され, これを施行するに際しては患者へのインフォームドコンセントを行うこととしている. われわれは内臓神経ブロックを手術室で透視下に施行している. 血圧計, 心電図, パルスオキシメータを装着し静脈路を確保した後, 患者を腹臥位とし, 上腹部に枕を入れる. 使用するブロック針の太さは22~23Gとし, 長さ90~120mmの長さのものを患者の体型により選択して使用している. 刺入部位として第1腰椎の棘突起中央から左右6~7cm外側で第12肋骨との交点を選択している. 皮膚, 皮下組織に十分な局所麻酔を行った後, マーカーをつけたブロック針を約45度の角度で第12胸椎棘突起に向け刺入する. 針が第1腰椎椎体に当たったならば, ここで低濃度の局所麻酔薬を注入し骨膜に麻酔を行っておく. マーカーを3cm引き上げた後ブロック針をそのまま皮下まで引き抜いてくる. そして, 針の刺入方向は変えずに刺入角度を45度よりも大きくし, ブロック針が第1腰椎椎体側面をかすめて行くように, かつマーカーが皮膚に接するまで刺入する. 透視下にブロック針が椎体前縁を0.5~1cm越えていることを確認する. 造影剤と局所麻酔薬を1:1の割合で混合した溶液を1本の針から12~14mlずつ注入し, retrocrural spaceの造影所見を正面像, 側面像で確認する. さらに体性神経の知覚鈍麻がないことを確認した後, 70~80%1本の針からアルコールを12~14mlずつ, 計24~28ml注入する. アルコール注入15分後に抜針し, その後1時間は腹臥位のまま手術室で観察する. 副作用としてブロック直後より血圧低下が出現するが, 昇圧薬で対応可能である. また下痢に対しては1週間でおさまる旨患者に説明し, 特別な処置は行っていない. 今回ビデオで供覧する症例は胆嚢癌のため上腹部痛を訴えている65歳, 女性である. 拡大肝右葉切除術, 膵島十二指腸切除術の説明を受けたがこれを拒否し, 疼痛治療目的に某病院内科より当科を紹介され受診した. 本症例を中心に内臓神経ブロックの効果, 問題点, 合併症, ブロック終了後に疼痛が残存した場合の治療などにつき解説を加えたい.
ISSN:1340-4903