長時間体外循環後脊髄損傷を来した1例

今回われわれは長時間体外循環後に対麻痺を生じた症例を経験した. <症例>34歳, 女性. ファロー四徴症のため, 9歳で左Blalock-Taussig術を, 22歳でファロー四徴症根治術を受けている. 今回大動脈閉鎖不全を伴った上行大動脈瘤と三尖弁閉鎖不全を指摘された. 手術はBentall術, 三尖弁々輪縫縮術, 大動脈-右冠動脈バイパス術を中等度低体温を用いた完全体外循環下に行った. 総体外循環時間は718分, 大動脈遮断時間は485分だった. 麻酔よりの覚醒は導入より34時間後で, その時四肢麻痺があった. 術後4日目には意識はほぼ全覚醒となり左上肢の運動が可能となったが,...

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Published in蘇生 Vol. 7; p. 95
Main Authors 舩津直彦, 黒田泰弘, 新蔵礼子, 内本亮吾, 宮本茂
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 01.04.1989
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Summary:今回われわれは長時間体外循環後に対麻痺を生じた症例を経験した. <症例>34歳, 女性. ファロー四徴症のため, 9歳で左Blalock-Taussig術を, 22歳でファロー四徴症根治術を受けている. 今回大動脈閉鎖不全を伴った上行大動脈瘤と三尖弁閉鎖不全を指摘された. 手術はBentall術, 三尖弁々輪縫縮術, 大動脈-右冠動脈バイパス術を中等度低体温を用いた完全体外循環下に行った. 総体外循環時間は718分, 大動脈遮断時間は485分だった. 麻酔よりの覚醒は導入より34時間後で, その時四肢麻痺があった. 術後4日目には意識はほぼ全覚醒となり左上肢の運動が可能となったが, 右上肢と両下肢の運動, 感覚麻痺があり, この時点ではTh12以下の脊髄傷害が疑われた. マンニトール, プロチレリンの投与を行い, 術後2月には右上肢の軽度運動麻痺とTh12以下の表在覚の傷害と運動麻痺が残り, 前脊髄動脈の異常による脊髄傷害が考えられた. 術後6月にはリハビリテーションによりTh12以下の運動がかなり可能になった. <考察>術後対麻痺は, 弓部大動脈や下行大動脈の遮断を行う手術時の重篤な合併症であり, その予防や術中モニタとして低体温, 一時的シャント造設, 体外循環, SEPの使用がある. 今回の症例は対麻痺を生じないと思われる上行大動脈を遮断し, 左大腿動脈より送血を行い, 右橈骨動脈で動脈圧をモニタしながら中程度低体温体外循環を行った. しかし, 718分と長時間だったこと, 症状より傷害部位が初期には広範かつまだら状に上下肢にあることより, 脊髄全体への長時間低灌流により虚血傷害を起こしたと思われる. 以上より低体温を用いた体外循環中でも脊髄傷害が生じることが判った. 今回のような長時間体外循環はまれであるが, 今後術式の複雑化, 適当な心筋保護液の使用により体外循環が長時間化する可能性があるため, 脳だけでなく脊髄の保護にも注意する必要がある.
ISSN:0288-4348