胎児性ヘモグロビン(HbF)γ鎖のエピトープ検索

<はじめに>輸血学上, 胎児性ヘモグロビン(HbF)を母体血中から検出することは, 胎児血の母体への移行を知る上で重要であり, 酸溶出法やアルカリ変性法で検査されている. HbFはα鎖とγ鎖のサブユニットからなっているが, γ鎖はHbAのβ鎖とは73%のホモロジーがある. 従って, γ鎖を抗原として抗体を作成してもβ鎖との交叉反応性は避けられないのが実情である. 免疫学的な定量検査が未だ導入されていない理由はここにもある. 今回, γ鎖の一次構造に従ってペプタイドを合成し, 各ペプタイドの抗体との反応性からβ鎖の抗原部位と重複しないγ鎖特異的エピトープの検索を行なった. <方...

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Published in日本輸血学会雑誌 Vol. 40; no. 2; p. 362
Main Author 吉岡尚文
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本輸血学会 01.05.1994
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ISSN0546-1448

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Summary:<はじめに>輸血学上, 胎児性ヘモグロビン(HbF)を母体血中から検出することは, 胎児血の母体への移行を知る上で重要であり, 酸溶出法やアルカリ変性法で検査されている. HbFはα鎖とγ鎖のサブユニットからなっているが, γ鎖はHbAのβ鎖とは73%のホモロジーがある. 従って, γ鎖を抗原として抗体を作成してもβ鎖との交叉反応性は避けられないのが実情である. 免疫学的な定量検査が未だ導入されていない理由はここにもある. 今回, γ鎖の一次構造に従ってペプタイドを合成し, 各ペプタイドの抗体との反応性からβ鎖の抗原部位と重複しないγ鎖特異的エピトープの検索を行なった. <方法〉ペプタイドの合成は, ファルマシア製のマニュアルタイプ合成機を使用した. 原理は固相法によるもので, C末端のアミノ酸は既にレジンと結合されており, シークエンスに従って縮合を行なった. γ鎖は146個のアミノ酸残基よりなっており, 合成ペプタイド1個のアミノ酸残基数は20個とし, C末端側から6残基は次のペプタイドのN末端側6残基とオーバーラップさせた. このような条件で行なうと, 合成ペプタイド数は10個となる. 合成後のペプタイドは式に従って切り出し, 精製した. Dot-ELISA法により, 5種のヘモグロビン関連抗体と10個の合成ペプタイドとの反応性を観察した. <結果および考察>合成したペプタイドは6残基ずつオーバーラップしている点を考えながら, 抗体との結合性を検討すると, 一次構造上5か所の活性部位があるものと判断された. 特に, N末端から71~90番までのペプタイドは, α鎖と35%, β鎖とは65%のホモロジーがあるにもかかわらず抗HbF抗体とのみ反応し, 抗Hbα鎖抗体, 抗Hbβ鎖抗体との反応は認められなかった. 従ってこの領域はγ鎖に特異的なエピトープと推察される. また, N末端から57~76番までのペプタイドは抗HbA, α鎖およびβ鎖抗体と反応している点を考えると, 前述のγ鎖特異的エピトープは一次構造上N末端から77番以降の領域の可能性が考えられる. このようなアプローチによって, 特異的な抗HbF抗体を作成することが可能となるものである.
ISSN:0546-1448