乳腺細胞診 -新報告様式とその運用実績

I. 新報告様式策定の経緯 わが国の乳腺細胞診は, ながらくPapanicolaou分類(Pap分類と略記)が使われてきているが, すでに国際細胞学会機関誌の投稿規定にはPap分類を用いた論文は掲載しないと告示されている. このような状況を踏まえて1990年代に入ってから, 乳腺細胞診に関するいくつかの報告様式が欧米から発信され, わが国でも実情に併せた報告様式の設定が望まれていた. 日本乳癌学会では2000年から規約委員会のなかに「小委員会」を設置し, 2004年6月発刊の第15版乳癌取扱い規約に掲載された. なお, この策定にあたっては, 小委員から提出された3,439例の細胞診症例を解析...

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Published in日本医科大学医学会雑誌 Vol. 1; no. 1; p. 38
Main Author 土屋眞一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 01.02.2005
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ISSN1349-8975

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Summary:I. 新報告様式策定の経緯 わが国の乳腺細胞診は, ながらくPapanicolaou分類(Pap分類と略記)が使われてきているが, すでに国際細胞学会機関誌の投稿規定にはPap分類を用いた論文は掲載しないと告示されている. このような状況を踏まえて1990年代に入ってから, 乳腺細胞診に関するいくつかの報告様式が欧米から発信され, わが国でも実情に併せた報告様式の設定が望まれていた. 日本乳癌学会では2000年から規約委員会のなかに「小委員会」を設置し, 2004年6月発刊の第15版乳癌取扱い規約に掲載された. なお, この策定にあたっては, 小委員から提出された3,439例の細胞診症例を解析し, 新報告様式設定のevidenceとしている. II. 新報告様式の解説 新報告様式は「判定区分」と「所見」より構成されている. 「判定区分」はまず, 標本を「検体適正」と「検体不適正」に大別し, 「検体適正」は「正常あるいは良性」, 「鑑別困難」, 「悪性の疑い」, 「悪性」の4項目に分けられている. 「所見」については, 判定した根拠と推定組織型を可能な限り記載することとした. 1. 判定区分について 1)「検体不適正」について 標本の作製不良, 細胞数過少などにより診断が著しく困難なものとした. 検体不適正例は3,439例の10.8%であったことから, 検体不適正の占める割合は10%以下が望ましいとの付帯事項(努力目標)を加えた. 2)「正常あるいは良性」について本区分は検体不適正例を除いた3,068例の41%を占めていた. これには正常の上皮細胞に加え, 線維腺腫の大部分, 乳腺症の一部, 乳管内乳頭腫, 良性葉状腫瘍および炎症性病変などが含まれるとする診断基準を設けた. 3)「鑑別困難」について"良, 悪性の細胞判定が困難な病変"とした. 乳頭状病変, 上皮増生病変などが含まれる. 鑑別困難例が236例(7.7%)であったことから, 付帯事項として, 本区分の比率は10%以下が望ましいとした. 4)「悪性の疑い」について この区分には, 主に異型の少ない非浸潤癌や小葉癌などが含まれている. 付帯事項として, その後の組織学的検索で「悪性の疑い」例の90%以上が悪性であることが望ましいとした. この数値は「悪性の疑い」94例中, 87例(92.6%)が組織学的に悪性であったevidenceに基づいている. 5)「悪性」について 本区分は悪性腫瘍を指し, 乳癌(原発, 転移性)および非上皮性悪性腫瘍などが含まれる. 2. 所見について 細胞診断の原点は"組織型推定"とそれにともなう"所見"の記載である. ともすれば細胞判定には良, 悪性診断に力点がおかれることが多いが, 細胞像から組織像を推定することによって, 病変の良, 悪性診断はおのずから付随してくるものと考える. III. 運用実績 新報告様式が発刊される2年ほど前から, 小委員会委員を中心にクラス分類との比較を踏まえて, 実際の細胞診標本で新報告様式を運用してきた. その結果, 検体不適が10%以内, 鑑別困難も10%前後になり, ほぼ報告様式の付帯事項に沿った結果となった. 悪性の疑いも現時点では95%位の悪性比率を保っている. ただし, 施設によっては検体不適正が20%弱のことがあり, さらなる臨床. 病理側の緊密な連携が望まれる. IV. 総括 この新報告様式はPap分類からの脱却を目指して策定されたもので, (1)検体の適正, 不適正の設定, (2)診断基準の明確化, (3)推定される組織型の記載, および(4)検体不適正率, 鑑別困難率, 悪性の疑いでの組織学的悪性率を付帯事項として設けた. 乳腺細胞診には乳頭分泌細胞診もあるが, 若干検体不適正率の上昇が予想されるものの, この報告様式で対応可能と考える. 当然のことながら, 本様式も時代の変遷とともに見直し, 修正の必要性がでてくると考思われる. その折には, 充分なevidenceをもとに改正案を作っていただきたいと念じている.
ISSN:1349-8975