心筋細胞のエタノール曝露時のミトコンドリアROS産生と細胞肥大に関与するタンパク質のプロテオミクス解析
留学先では, ラット新生仔の心室から単離した培養心筋細胞を用いました. 研究課題は, 日本医科大学で用いていたマウスの培養心筋細胞のエタノールに対する反応をもとに設定しましたが, 以下に述べますように, ラット心筋細胞は予想に反し, エタノールに曝露してもROS産生増大と細胞肥大を起こしませんでした. 始めに, ラット心筋細胞に対するエタノール(0, 10, 50, 100, 200mM)の効果を確認する目的で, 96穴プレートに5×104cells/wellの細胞濃度で播種して, 主に24時間曝露後の諸生理機能(細胞当たりのタンパク量, ミトコンドリア膜電位(△Ψm)など)について, 主に2...
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Published in | 日本医科大学医学会雑誌 Vol. 4; no. 4; p. 234 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本医科大学医学会
01.10.2008
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ISSN | 1349-8975 |
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Summary: | 留学先では, ラット新生仔の心室から単離した培養心筋細胞を用いました. 研究課題は, 日本医科大学で用いていたマウスの培養心筋細胞のエタノールに対する反応をもとに設定しましたが, 以下に述べますように, ラット心筋細胞は予想に反し, エタノールに曝露してもROS産生増大と細胞肥大を起こしませんでした. 始めに, ラット心筋細胞に対するエタノール(0, 10, 50, 100, 200mM)の効果を確認する目的で, 96穴プレートに5×104cells/wellの細胞濃度で播種して, 主に24時間曝露後の諸生理機能(細胞当たりのタンパク量, ミトコンドリア膜電位(△Ψm)など)について, 主に2機種のそれぞれ蛍光と吸光度を測定するプレート用光度計(FLUOstar OPTIMAとSpectra MAX 340)で解析しました. 細胞当たりのタンパク量は, 96穴プレートの同じ穴のDNA量とタンパク量の両方を測定する方法を新しく開発して求めました. 細胞肥大の正のコントロールとしてendothelin-1(ET-1)曝露も行いました. ラット心筋細胞の細胞当たりのタンパク量は当初の予想に反し, エタノール濃度・時間依存的に減少しました. 次に, ミトコンドリアの機能を調べるためにJC-1で染色して△Ψmを測定しました. 50mM以下の低濃度群では, 曝露直後と24時間後のいずれでも△Ψmに変化がありませんでしたが, 100mM以上の高濃度群では, 曝露直後の△Ψmは曝露直前と比べて有意に増加(過分極)し, 24時間後には逆に減少(脱分極)しました. ET-1曝露群の△Ψmは, 曝露直後は変化がありませんでしたが24時間後には有意に減少しました. 解糖系が亢進しているか調べるために, 細胞から培養液中に放出されたlactateの量を測定しましたが, 全エタノール曝露群で3時間後と24時間後のいずれでもコントロールと変わりませんでした. 細胞傷害性を調べるためにLDHの培養液中への放出量を測定したところ, 高濃度エタノール群では24時間後に増加しましたが, この時点でDNA量に変化がなかったことから, 細胞死が増えたのではなく, 細胞膜の透過性が増大したものと考えられました. ROSはdihydroethidiumを用いてsuperoxide産生量を測定したところ, 高濃度エタノール群で24時間後に増加する傾向はありましたが, コントロール群との間に有意差はなく, これもマウス心筋細胞と異なった結果でした. なお, 10mM群のsuperoxide産生量は減少して200mM群との間に有意差があり, 適量飲酒者が冠動脈疾患に罹患しにくいという疫学的調査結果との関連が示唆されました. 以上のことから, ラット心筋細胞を高濃度のエタノールに曝露すると, 蛋白合成が抑制されて細胞当たりのタンパク量は減少し, また, ミトコンドリアにおけるATP産生能も抑制されて, それによるエネルギー不足が解糖系の亢進によって補われないことも原因と考えられました. 留学期間が短かったためにプロテオミクス解析に割く時間がほとんどありませんでしたが, 諸機能の変化が認められた100mMのエタノールに曝露した心筋細胞のタンパク質をTCA/acetoneで固定し, 界面活性剤の存在下でUreaによりタンパク質を抽出しました. 細胞抽出液をImmobiline DryStripに載せて等電気点電気泳動を行い, 次にDryStripをSDS/アクリルアミドゲルに載せて2次元電気泳動し, SYPRO Rubyで染色しました. その蛍光画像ファイルを, 帰日後に専用ソフトで解析したところ, ミトコンドリアのATPaseの有意な増加が示唆されました. 今後, 2次元電気泳動ゲルの増加したスポットを自動ゲル切り出し機で切り出し, 液体クロマトグラフィー質量分析計でタンパク質を同定したうえ, Western Blottingを行って, 増減を確認する予定です. |
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ISSN: | 1349-8975 |