遺伝性非ポリポーシス大腸癌抗原のSEREX法による同定

目的:遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)は, 比較的予後良好であり, 腫瘍組織へのリンパ球浸潤が多く認められることから, 免疫機構の予後への関与が示唆されている. HNPCCでは, DNA修復機構の異常によるフレームシフト変異で生じた変異蛋白に対する免疫応答の関与が考えられる. 我々は, 患者血清を用いて癌細胞cDNAライブラリーをスクリーニングするSEREX法を用いて, 患者に免疫応答を誘導するHNPCC抗原の同定を行った. 方法:Microsatellitte instability陽性大腸癌細胞株DLD-1, Lovo, Notaから作製したラムダファージcDNAライブラリーをHN...

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Published in家族性腫瘍 Vol. 1; no. 2; p. 33
Main Authors 石川敏昭, 藤田知信, 岡部聡, 新井健広, 岩井武尚, 湯浅保仁, 河上裕
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 家族性腫瘍研究会 15.05.2001
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ISSN1346-1052

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Summary:目的:遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)は, 比較的予後良好であり, 腫瘍組織へのリンパ球浸潤が多く認められることから, 免疫機構の予後への関与が示唆されている. HNPCCでは, DNA修復機構の異常によるフレームシフト変異で生じた変異蛋白に対する免疫応答の関与が考えられる. 我々は, 患者血清を用いて癌細胞cDNAライブラリーをスクリーニングするSEREX法を用いて, 患者に免疫応答を誘導するHNPCC抗原の同定を行った. 方法:Microsatellitte instability陽性大腸癌細胞株DLD-1, Lovo, Notaから作製したラムダファージcDNAライブラリーをHNPCC大腸癌患者の血清でスクリーニングして, 血清中IgG抗体と反応する陽性クローンを単離し, 解析した. さらに健常人や各種癌患者の血清を用いて, その免疫応答の特異性を検討した. 結果:約10^5 プラークをスクリーニングして479個の陽性クローンを単離し, 63種の抗原を同定した. 免疫応答の特異性を検討した結果, caudal type homeobox transcription factor 2 (CDX2)の(G)7領域に変異を認めたHNPCC陽性大腸癌患者血清にのみCDX2に対するIgG抗体が検出された. 考察:CDX2は, 大腸癌では発現が低下しており, マウスではCDX2の変異により右側結腸に腫瘍性ポリープの多発することから, 大腸癌の発生との関連が示唆されている. 抗CDX2抗体を認めた患者の癌細胞のCDX2遺伝子には, グアニンの7個の繰り返し配列が8個となるフレームシフト変異があり, C末端に8アミノ酸の変異と22アミノ酸の付加が起こる. 変異CDX2は免疫原性が増加したため, 患者にCDX2に対するIgG反応が誘導された可能性がある. したがって, HNPCC陽性大腸癌では, DNA修復エラーによるフレームシフト変異で生じる変異蛋白に対する免疫応答の誘導が可能であり, 免疫療法に利用できる可能性が考えられる.
ISSN:1346-1052