慢性MRSA感染創内に骨様石灰化組織の形成を認めた1例‐顎変形症手術後の口腔内瘢痕修正術から発症した症例
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染はMRSAを根絶する手段に乏しいことから臨床的に問題となることがある. われわれは, 顎変形症手術後の瘢痕修正術創より慢性的なMRSA感染を併発し, 創内に急速な骨様石灰化組織の形成のみられた極めて稀でしかも治療に苦慮した症例を経験したので報告した. 患者は19歳女性で下顎の非対称を主訴に当科を受診した. 左側は下顎枝矢状分割術を施行し囲繞結紮, 右側は下顎枝垂直骨切り術を施行し骨接合は行わなかった. 術後1年を経て患者は右下顎臼歯部口腔前庭部の術後瘢痕を主訴に当科を再来. 瘢痕修正手術を外来にて施行した. しかし, その約1ヵ月後に術後感染を...
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Published in | 日本顎変形症学会雑誌 Vol. 8; no. 2; pp. 82 - 83 |
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Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本顎変形症学会
15.08.1998
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ISSN | 0916-7048 |
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Summary: | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染はMRSAを根絶する手段に乏しいことから臨床的に問題となることがある. われわれは, 顎変形症手術後の瘢痕修正術創より慢性的なMRSA感染を併発し, 創内に急速な骨様石灰化組織の形成のみられた極めて稀でしかも治療に苦慮した症例を経験したので報告した. 患者は19歳女性で下顎の非対称を主訴に当科を受診した. 左側は下顎枝矢状分割術を施行し囲繞結紮, 右側は下顎枝垂直骨切り術を施行し骨接合は行わなかった. 術後1年を経て患者は右下顎臼歯部口腔前庭部の術後瘢痕を主訴に当科を再来. 瘢痕修正手術を外来にて施行した. しかし, その約1ヵ月後に術後感染を生じ, MRSAが検出された. 数回にわたって不良肉芽掻爬術を施行するもその都度創部は再発. また, 種々の抗MRSA化学療法や消毒薬剤の使用も試みたが, これらは消化器症状を主とする激しい副作用を惹起し, 著しく創部を刺激したため治療の継続は困難であった. 炎症は徐々に拡大し, 右下顎骨骨髄炎を併発. 瘢痕修正術から約1年後に, 右下顎骨区域切除術を施行. しかし, その約2ヵ月後に再び創は再発し, しかも激しい疼痛を伴って創内に連日石灰化組織が形成されるようになった. この石灰化組織は組織学的に骨に酷似していた. この病変に対し1日7時間の持続洗浄療法を行うことで石灰化組織の形成が止まり, MRSAも消失. 約3ヵ月の後にようやく創傷治癒に至った. 質問 愛知学院大, 歯, 1口外 高石誠 1. 検出されたMRSAの検出gradeはどれ位でしたか. 2. 化学療法の内容を教えて下さい. 3. MRSA腸炎を疑われましたか. 4. CD抗原のチェックは行われましたか. 回答 東医歯大, 歯, 口外II 原田清 1. MRSAの検出の程度は, 病態がactiveな時には(++)~(+++)であった. 2. 患者が音楽大学の学生であったことから, バンコマイシンやハベカシンの使用は断念した. 主に用いた抗MRSA化学療法はホスミシンと他の抗生剤によるコンビネーション投与であったが, いずれも悪心, 嘔気, 嘔吐, 腹痛, 下痢等の消化器症状が強く継続投与が困難であった. 3. 内科への併診依頼の結果ではMRSA腸炎の診断はつかなかった. 4. 本患者でCD抗原は検査していない. 質問 九州大, 歯, 2口外 堀之内康文 1. 今後の顎骨再建の予定について教えて下さい. 2. 不正咬合に対する手術から最終的に顎切に至っていますが, 患者からのクレームの有無(医療訴訟等), その対応について教えて下さい. 回答 東医歯大, 歯, 口外II 原田清 1. 本病変は口腔顔面領域に限局しておらず, 創部が存在するとそこにMRSAが検出され石灰化組織が形成されるという病態を呈するため, 現在のところ区域切除後の下顎骨再建については考えていない. ただし, 矯正治療や補綴処置により患者自身による誘導顎位での咬合再建は考えている. 2. 現在までのところ患者側から訴訟やクレーム等のトラブルは生じていない. 質問 大阪歯大, 口外I 久保誼修 どのような瘢痕修正手術を施行されたのですか. 回答 東医歯大, 歯, 口外II 原田清 瘢痕修正術は下顎枝前縁~臼歯部口腔前庭に及ぶ瘢痕拘縮がブラッシング時に妨げとなるとの患者の訴えで行った. 手術は下顎骨面が露出するほど大きく切除したのではなく, 上皮の切除にとどめた. 質問 東京歯大, 口外II 鶴木隆 貴重な症例報告ありがとうございました. 口内法手術は, 有菌手術, 特に口内清掃不良であれば, 基本的に術後感染症はいつでも生じうる. 瘢痕切除手術に際し, 口内清掃状態に問題があったのではないでしょうか. 回答 東医歯大, 歯, 口外II 原田清 瘢痕修正術前後の患者の口腔衛生状態に特に問題は無かったと考えている. |
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ISSN: | 0916-7048 |