亜急性期を過ぎて幻肢および幻肢痛の出現した外傷性頸髄損傷の1例

今回われわれは, 急性期よりみられた両下肢の中枢性疼痛に加え, 受傷後約3カ月を経過してから幻肢知覚および麻痺境界域の幻覚が出現, その出現に心因性因子・環境因子が強く関与していると考えられる外傷性頸損の1例を経験したので報告する. 症例は62歳男性, 1994年7月20日高所より転落受傷, 右C 4左C 5以下四肢麻痺(Frankel A), レ線上C 5/6脱臼を認めた. 7月25日頸椎後方固定術施行. 人工呼吸器装着. この頃より両下肢の灼熱性疼痛出現. 8月2日気管切開. 10月になり人工呼吸器より離脱. 11月一般病棟へ転棟直後両上肢, 右下肢の幻肢および胸部に幻覚(針金が巻かれてい...

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Published inリハビリテーション医学 Vol. 32; no. 11; p. 741
Main Authors 金田浩治, 住田幹男, 勝山真介
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本リハビリテーション医学会 18.11.1995
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Summary:今回われわれは, 急性期よりみられた両下肢の中枢性疼痛に加え, 受傷後約3カ月を経過してから幻肢知覚および麻痺境界域の幻覚が出現, その出現に心因性因子・環境因子が強く関与していると考えられる外傷性頸損の1例を経験したので報告する. 症例は62歳男性, 1994年7月20日高所より転落受傷, 右C 4左C 5以下四肢麻痺(Frankel A), レ線上C 5/6脱臼を認めた. 7月25日頸椎後方固定術施行. 人工呼吸器装着. この頃より両下肢の灼熱性疼痛出現. 8月2日気管切開. 10月になり人工呼吸器より離脱. 11月一般病棟へ転棟直後両上肢, 右下肢の幻肢および胸部に幻覚(針金が巻かれている)が出現, その特徴は軽度の痛みとしびれをともない, 幻肢は上肢屈曲位, 下肢伸展位で麻痺肢に重なっており, 大塚の分類に従えばI型に相当, 幻肢のイメージは視野に入らない範囲で自由に動かせた. 車椅子に乗れるようになった11月中旬右下肢の幻肢は消失. 視覚による認知の不足を考え, 病室で手鏡を利用したり, 訓練場面でも患者に見えるように上肢訓練を行う時間を増やし, 患者の訴えを聞く時間, 看護サイドと話し合う時間も増やした. 1995年1月になり麻痺肢を他動的に動かすとその間幻肢は消失するようになった. 本症例のように疼痛の増悪という形をとらずに, 幻肢が明確にイメージ化した例はまれと思われる. 患者の心理状態, 障害受容の段階に応じて治療プログラムを工夫した行動療法的アプローチが効果的であったと思われる.
ISSN:0034-351X