ラット弓状核ニューロン活動に及ぼす針刺激の効果と内因性オピオイドの関与
痛みは不安や恐怖などの情動反応を生じ, 自律神経・内分泌系の連鎖反応を伴う. 従来, 痛みの研究は痛覚上行路など感覚の認識系に主眼がおかれ, 視床下部などいわゆる情動系と痛みとの関係については報告が少なかった. そこで弓状核を実験の対象とし, 視床下部ニューロンが痛み刺激にどう反応し, 針刺激による痛覚抑制にどのように関与するかを検討してきた. 針刺激による鎮痛機序には内因性 opioids の関与が示唆されているが, 弓状核は dopamine のほかに β-endorphin を脳内で最も多く含み, 下垂体とは門脈を介し, 中脳中心灰白質とは軸索によって連絡する核である. 今回は針刺激によ...
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Published in | 昭和歯学会雑誌 Vol. 7; no. 2; p. 266 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
昭和大学・昭和歯学会
01.09.1987
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ISSN | 0285-922X |
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Summary: | 痛みは不安や恐怖などの情動反応を生じ, 自律神経・内分泌系の連鎖反応を伴う. 従来, 痛みの研究は痛覚上行路など感覚の認識系に主眼がおかれ, 視床下部などいわゆる情動系と痛みとの関係については報告が少なかった. そこで弓状核を実験の対象とし, 視床下部ニューロンが痛み刺激にどう反応し, 針刺激による痛覚抑制にどのように関与するかを検討してきた. 針刺激による鎮痛機序には内因性 opioids の関与が示唆されているが, 弓状核は dopamine のほかに β-endorphin を脳内で最も多く含み, 下垂体とは門脈を介し, 中脳中心灰白質とは軸索によって連絡する核である. 今回は針刺激によるニューロン活動の変化と視床下部 β-endorphin 量の変動を報告する. 実験動物に Wistar 系ラット(250~320g)を用い, Thiamylal sodium 麻酔下で前肢合谷に3および45Hzの針刺激(5ms, 300~600 μA)を15分間加えると, 歯髄刺激による開口反射の大きさを約50%抑制し, 持続の長い後効果を生ずる. 検索した弓状核ニューロン(n=82)の自発性放電頻度は針刺激によって著しい変化を生じ, 平均230%に増加するtype Iニューロンと平均45%に減少するtype IIニューロンがみられ, これらの変化の時間経過は開口反射抑制の時間経過と一致した. 弓状核ニューロンの侵害刺激(tail pinch)に対する応答も針刺激後, type Iでは増大し, type IIでは低下した. Opioidsの特異的拮抗剤 naloxone の iontophoresis (0.1M, 100μA)によりtype Iの放電頻度の増加, 侵害受容性応答の増大はともに拮抗された. 14匹のラットを用いて上述実験条件における視床下部の β-endorphin 量を測定すると, 侵害刺激後針刺激を加えただちに断頭したラット群ではcontrol群に比し, 有意の増加がみられた. 以上の結果から, 針刺激による鎮痛効果の時間経過と一致して生ずる弓状核ニューロン活動の変化は, opioidsを介して惹起され, type Iニューロンでは弓状核内に直接遊離されたopioidsが作用することが明らかになった. |
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ISSN: | 0285-922X |