事例から学ぶ医療安全~患者からのクレームにはどう対応したらよいか
「抄録」医療裁判(新受件数)は, 2004年の1110件をピークに減少している. 2009年の新受件数は733件となっており, これは10年前とほぼ同様の件数である. しかし, 医療裁判の減少と医療紛争の減少とは「イコール」ではない. むしろ, 執拗なクレームに医療者が疲弊しているケースは増加している印象さえある. 医療紛争は患者側からの医療不信に端を発するが, これに対応した医療者側が患者に対して不信を募らせることも危惧される. 医療は, 患者との信頼関係を基礎とするものであるから, このような事態は真に治療を必要とする患者・医療者側双方にとって不幸である. 医療裁判は医療全体の中で極めて例...
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Published in | 総合健診 Vol. 38; no. 3; pp. 364 - 369 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本総合健診医学会
15.05.2011
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ISSN | 1347-0086 |
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Summary: | 「抄録」医療裁判(新受件数)は, 2004年の1110件をピークに減少している. 2009年の新受件数は733件となっており, これは10年前とほぼ同様の件数である. しかし, 医療裁判の減少と医療紛争の減少とは「イコール」ではない. むしろ, 執拗なクレームに医療者が疲弊しているケースは増加している印象さえある. 医療紛争は患者側からの医療不信に端を発するが, これに対応した医療者側が患者に対して不信を募らせることも危惧される. 医療は, 患者との信頼関係を基礎とするものであるから, このような事態は真に治療を必要とする患者・医療者側双方にとって不幸である. 医療裁判は医療全体の中で極めて例外的な事象にすぎない. にもかかわらず, 医療者にとって不慣れな場面であることから過大評価されやすい傾向がある. たしかに, 全ての患者が納得する医療が理想である. しかし, 例外的事象を意識するあまり, 「角を矯めて牛を殺す」ことがあってはならない. 裁判を恐れて, 安易に患者に迎合した対応をとると, より過大・理不尽な要求が示され, 医療者は益々疲弊するという悪循環に陥りかねない. 医療紛争の場面では, 紛争処理のための知識・技術が求められるのであって, 信頼関係構築・維持のために学んできた医療者の有する知識・技術は全く通用しない. そのため, 医療安全の範疇に紛争処理までを取り込むことの弊害は少なくない. むしろ, このような場面では, 医療者としては早期に事実関係の把握することに留め, 法律家など紛争処理の専門家に相談して対策を講じるという分業化が図られてよい. 医療者が, 医療紛争という枝葉の問題ではなく, 良質な医療を提供するという幹に集中できる環境整備こそが理想であり, 医療安全の大きな役割と考える. |
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ISSN: | 1347-0086 |