血液浄化法により救命し得た向精神薬急性中毒による重症不整脈の1例
向精神薬の致死的副作用のひとつに循環器系の障害がある. 最近, われわれは, 自殺目的で多量の炭酸リチウムとイミプラミンを服用し, 重症不整脈を来した症例を血液浄化法で救命し得たので報告した. 症例は33歳, 男性で, 体重は68kgであった. 昭和55年から躁鬱病で入退院を繰り返していた. 平成元年11月9日より当院精神神経科での通院治療が始まった. 12月15日よりイミプラミン, 平成2年3月15日より炭酸リチウムが投与されていたが, 情緒不安定なため5月28日入院予定のところ, 27日15時頃自殺を図った. 炭酸リチウム150錠(15,000mg), イミプラミン166錠(4,000mg...
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Published in | 蘇生 Vol. 10; p. 65 |
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Main Authors | , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本蘇生学会
01.04.1992
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ISSN | 0288-4348 |
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Summary: | 向精神薬の致死的副作用のひとつに循環器系の障害がある. 最近, われわれは, 自殺目的で多量の炭酸リチウムとイミプラミンを服用し, 重症不整脈を来した症例を血液浄化法で救命し得たので報告した. 症例は33歳, 男性で, 体重は68kgであった. 昭和55年から躁鬱病で入退院を繰り返していた. 平成元年11月9日より当院精神神経科での通院治療が始まった. 12月15日よりイミプラミン, 平成2年3月15日より炭酸リチウムが投与されていたが, 情緒不安定なため5月28日入院予定のところ, 27日15時頃自殺を図った. 炭酸リチウム150錠(15,000mg), イミプラミン166錠(4,000mg)を一度に服用していた. 18時30分精神神経科に緊急入院, 直ちに胃洗浄と強制利尿が施行された. 20時20分頃から不整脈が出現してきたので, 20時55分当施設へ収容した. 入室時, 譫妄状態で末梢循環不全が認められ, 心電図は洞機能低下やQRS幅延長など伝導障害を呈していた. 直ちに血液浄化を開始し, 血液透析2回でリチウム血中濃度は3.96mEq/リットルから1.55mEq/リットルへ著明に低下したが, 警告不整脈は持続して血行動態も不安定であった. 経静脈的ペーシング下に血漿潅流を2回, 血漿交換を1回行い, 心電図の回復とともに血行動態も安定してきた. イミプラミン血中濃度は1,440ng/mlから653ng/mlまで低下していた. 軽度の運動失調は認められたが, 意識清明で循環動態も安定したので第4病日に退室させた. 薬物中毒の治療でも, 特異的拮抗薬がない場合, その治療は対症療法になる. 不整脈治療には種々の抗不整脈薬があるが, 警告不整脈に対しては, その原因物質の除去が基本である. リチウムもイミプラミンも低分子物質であるが, 後者には血液透析は無効で血漿交換が有効であった. その一因は蛋白結合度であろう. 血液浄化法は急性薬物中毒の治療にも有用であるが, その選択に際してはその薬物特異性に留意する必要がある. |
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ISSN: | 0288-4348 |