予備加温により獲得される腸管出血性大腸菌O157のストレス耐性

【目的】腸管出血性大腸菌O157(O157)は, 1996年大阪府堺市での小学生を中心とした大規模な食中毒事故を契機に広く知れ渡るに至った. O157は感染力が強く激しい下痢, 血便, 溶血性尿毒症を合併し, 死に至ることもあるため社会的影響は極めて大きい. 一方大腸菌から哺乳動物細胞に至るまで, 細胞は温熱を含め様々なストレスによりストレス蛋白(HSP70)を誘導する. また, 予備加温により誘導されたHSP70は, その後の過酷なストレスに対し防御的に作用する. O157においても, 不十分な加温, 調理により誘導されたHSP70がその後の生存率, 毒性を増強する可能性が示唆される. 【方...

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Published in日本ハイパーサーミア学会誌 Vol. 19; no. 4; p. 218
Main Authors 中野雅則, 伊藤要子, 小寺徹, 仁田正和
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本ハイパーサーミア学会 01.12.2003
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ISSN0911-2529

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Summary:【目的】腸管出血性大腸菌O157(O157)は, 1996年大阪府堺市での小学生を中心とした大規模な食中毒事故を契機に広く知れ渡るに至った. O157は感染力が強く激しい下痢, 血便, 溶血性尿毒症を合併し, 死に至ることもあるため社会的影響は極めて大きい. 一方大腸菌から哺乳動物細胞に至るまで, 細胞は温熱を含め様々なストレスによりストレス蛋白(HSP70)を誘導する. また, 予備加温により誘導されたHSP70は, その後の過酷なストレスに対し防御的に作用する. O157においても, 不十分な加温, 調理により誘導されたHSP70がその後の生存率, 毒性を増強する可能性が示唆される. 【方法, 結果】O157をTryptone soya brothに懸濁し, 43, 45, 47, 49, 51, 53℃で加温し経時的(0~180分間)にサンプリングし, O157の生存率を検討した. O157は43, 45℃加温で生存率はやや増加し, 47, 49℃ではやや減少し, 51, 53℃では急激に減少した. そこで47, 49℃を予備加温温度とし, 予備加温後, 経時的に53℃で再加温し生存率を測定した. また, 食品をO157で汚染させ不十分な温度で加熱した後のO157の生存率, 毒性を検討した. その結果, 予備加温後の53℃での再加温では, 53℃加温のみに比し有意に生存率は増加し, 予備加温と再加温の時間が短いほど生存率は増加した. また食品に汚染させたO157についても同様な結果を認めた. 更に, O157予備加温後のストレス蛋白の発現と再加温での生存率, 毒性との関連を検討した. 【結語】O157は, 殆ど死滅する53℃の加温に対し, 予備加温により防御効果(温熱耐性)を認めた. よってO157に汚染された食品は, 不十分な加温, 調理によりストレス蛋白を誘導し, 再加温で死滅せず食品中に残存し重篤な食中毒を起こす原因となり得る.
ISSN:0911-2529