腹腔内出血にて術中約1時間心停止したが, 社会復帰した1症例
〔症例〕7歳, 女児. 友達と遊んでいてブロック塀の下敷きとなり受傷した. 本院救命救急センターに搬送され, 処置中に血圧が一時的に50台に低下し, 腹腔内出血の疑いにて緊急手術となった. 入室時血圧は114/64に回復していたが, 脈拍は150bpmと頻脈を呈していた. チオペンタール, パンクロニウムにて麻酔を導入し, 酸素・亜酸化窒素, エンフルランにて維持していた. 肝破裂があったため肝左葉を検索していたところ急激に出血が始まり止血不能の状態となった. 血圧は急激に低下し, 心室細動, 心静止となった. 直ちに閉胸式心マッサージを施行し, さらに術野より開胸してもらい開胸心マッサージを...
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Published in | 蘇生 Vol. 16; no. 3; p. 195 |
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Main Authors | , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本蘇生学会
01.09.1997
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ISSN | 0288-4348 |
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Summary: | 〔症例〕7歳, 女児. 友達と遊んでいてブロック塀の下敷きとなり受傷した. 本院救命救急センターに搬送され, 処置中に血圧が一時的に50台に低下し, 腹腔内出血の疑いにて緊急手術となった. 入室時血圧は114/64に回復していたが, 脈拍は150bpmと頻脈を呈していた. チオペンタール, パンクロニウムにて麻酔を導入し, 酸素・亜酸化窒素, エンフルランにて維持していた. 肝破裂があったため肝左葉を検索していたところ急激に出血が始まり止血不能の状態となった. 血圧は急激に低下し, 心室細動, 心静止となった. 直ちに閉胸式心マッサージを施行し, さらに術野より開胸してもらい開胸心マッサージを施行し, ボスミンなどの蘇生薬を投与し, 心拍の再開を図ったがなかなか反応しなかった. 大量の輸血, 輸液を施行し, 蘇生薬を投与しながら開胸心マッサージを続行した. 10分後, 瞳孔は中等度以上散大を示していた. なお体温は33~34度を示していた. 約50分後, ノルアドレナリンなどの投与により心室細動, 心室性頻拍となり, 洞調律にもどった. 以後パンクロニウム・酸素にて収縮期血圧100~120を維持できた. なお手術終了時には瞳孔は, 縮瞳していた. 術後約4時間で刺激に対して反応を示し, 5時間後には質問に対して応答し, 8時間後には意識状態は明瞭となり, 麻痺も全く認められなかった. しかし, 呼吸状態は大量の輸血, 輸液のため肺水腫をきたし, 5日間人工呼吸管理し, 抜管した. 約1ヵ月間ほぼ問題なく経過したが, 徐々に喘息様の呼吸音と嗄声が出現してきた. 気管支ファイバーなどで精査したところ声門下狭窄が指摘された. 呼吸困難感が増強し, 狭窄も進行してきたため気管形成術が施行された. 以後問題なく経過し, 現在に至っている. 〔考察〕今回長時間の心停止にもかかわらず, 神経学的になんら問題なく社会復帰できたのは, 大量の輸血, 輸液により, 偶発的に33~34度の低体温になり, 酸素消費量が減少し, 代謝が抑えられたため後遺症を残さなかったものと考えられた. また, 直ちに開胸心マッサージを施行したことで有効な心拍出量が維持できたためと考えた. 〔結論〕偶発的な軽度低体温と有効な開胸心マッサージにより神経機能が温存されたと思われた. |
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ISSN: | 0288-4348 |