変形性股関節症における脚長差常時補正の実際とその検討

【目的】変形性股関節症の進行に伴う患側下肢長の短縮による脚長差増大は, 股関節構成体のみならず骨盤支持機構, 脊柱, 膝関節, 歩容などヘの生体力学的影響が大きく, 股関節痛や諸症状を増強させる. これに対し屋外および職場では補高靴を使用し, 家庭の室内では踵部補高装具を装用し, その併用により脚長差を常時補正して有用性を認めている. 最近の実状を調査し, 適応ならびに装具処方や作製上の問題点を示し, その効用に関しても検討する. 【方法】1987~1991年までの最近5年間の本法による脚長差補正症例95例を対象とし, アンケートまたは面談法にて, 使用実態および補高後の症状改善内容を調査する...

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Published inリハビリテーション医学 Vol. 29; no. 11; p. 887
Main Authors 蟹江良一, 和田郁雄, 堀場充哉, 松井宣夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本リハビリテーション医学会 01.11.1992
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ISSN0034-351X

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Summary:【目的】変形性股関節症の進行に伴う患側下肢長の短縮による脚長差増大は, 股関節構成体のみならず骨盤支持機構, 脊柱, 膝関節, 歩容などヘの生体力学的影響が大きく, 股関節痛や諸症状を増強させる. これに対し屋外および職場では補高靴を使用し, 家庭の室内では踵部補高装具を装用し, その併用により脚長差を常時補正して有用性を認めている. 最近の実状を調査し, 適応ならびに装具処方や作製上の問題点を示し, その効用に関しても検討する. 【方法】1987~1991年までの最近5年間の本法による脚長差補正症例95例を対象とし, アンケートまたは面談法にて, 使用実態および補高後の症状改善内容を調査するとともに, 体重心測定やX線学的に検討した. 【結果】対象95例(女84, 男11例)中, 51例につき調査できた. 脚長差0.5 cm以上が適応となり, 靴と装具の補高値は原則として同一とし, その数値は実測脚長差が1.5 cmまではこれと同値で, それ以上では実測値の70~80%が適するが, 初回使用時には2.5 cmを限度として一定期間使用後の漸増がよい. 脚長差5 cm以上では安定性の点から踵部装具を少し低くする. 装着状況は全体に良好で80%が常用し, 使用効果は94%に有効性を認めた. 股関節痛の減少, 跛行軽減, 歩容, 歩行の改善が多く, 腰痛, 膝関節痛, 臀筋疲労感の軽減例も認めた. 体重心測定法により重心動揺性の減少と安定性の獲得が, また立位でのX線写真により骨盤傾斜ならびに脊柱側弯の改善が理解された. 【結論】保存的基礎療法としての脚長差常時補正の有効性を認め, これを証明した. <質疑応答> 蟹江良一:鷲見正敏(国立神戸病院)先生へ. 脚長差補正時の股関節痛の軽減機序に関しては, 疼痛の客観化が困難な現時点では確証は得がたいが, 自覚的には高率に認められる. これは補高により骨盤傾斜や脊椎側弯ならびに歩行の改善が得られ, その結果, 股関節の関節包や関連筋への負荷刺激が軽減するための生体力学的効果と考えられる. 司馬先生(座長)へ. ご指摘のごとき内転筋拘縮の高度な症例では, 実測脚長差以上にみかけの脚長差が大きく, 健側の膝関節の屈曲位をとり代償していることが多い. これに対して両者の中間程度の補高を行っているが, 骨盤傾斜の改善には限界があっても, 継続使用により拘縮の改善も期待されるし, 健側膝への影響も軽減されると考えられる.
ISSN:0034-351X