輸血による移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)の1症例

<症例〉67歳, 男性. 腹部大動脈瘤に対して酸素-笑気-エンフルレン麻酔下にY型人工血管置換術が施行された. 術中3500mlの出血に対し, 保存血2000ml, 濃厚赤血球200ml, 新鮮凍結血漿560ml, 血縁者からの新鮮血600mlの計2760mlの血液製剤および総量4800mlの乳酸加リンゲル溶液が投与された. 第6病日に顔面に紅斑が出現したため薬疹と判断し, ステロイド剤の外用を開始したが改善がみられなかった. 第9病日に下痢が出現したが, 止瀉剤の内服により軽快した. 第12病日より37℃台の微熱が持続し, 第16病日に39.4℃の高熱と下痢をきたした. 第18病日に末...

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Published in蘇生 Vol. 12; pp. 77 - 78
Main Authors 山城忠孝, 赤澤訓, 富樫秀彰, 川上賢幸, 堀田訓久, 井上荘一郎, 谷川真道, 粕田晴之, 清水禮壽
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 01.04.1994
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ISSN0288-4348

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Summary:<症例〉67歳, 男性. 腹部大動脈瘤に対して酸素-笑気-エンフルレン麻酔下にY型人工血管置換術が施行された. 術中3500mlの出血に対し, 保存血2000ml, 濃厚赤血球200ml, 新鮮凍結血漿560ml, 血縁者からの新鮮血600mlの計2760mlの血液製剤および総量4800mlの乳酸加リンゲル溶液が投与された. 第6病日に顔面に紅斑が出現したため薬疹と判断し, ステロイド剤の外用を開始したが改善がみられなかった. 第9病日に下痢が出現したが, 止瀉剤の内服により軽快した. 第12病日より37℃台の微熱が持続し, 第16病日に39.4℃の高熱と下痢をきたした. 第18病日に末梢血中の白血球数と, 血小板数は著明に減少し, プロトロンビン時間の延長とFDPの上昇を認めたため, 移植血管を感染源とする敗血症およびDICと診断し, 治療を開始した. 第19病日に再手術を施行したが, 移植血管に明らかな感染は認められなかった. この時点で小斑状の紅斑は全身性に散在し, 汎血球減少を呈し, 総ビリルビン値は高値を示した. 心不全および下血が進行し, 第21病日に死亡した. 死亡直前に施行した骨髄生検では, 赤芽球系の著明な低形成と異型リンパ球の浸潤が認められ, 皮膚生検では, 表皮内に好酸性細胞の壊死が認められたため, 急性型の移植片対宿主病と診断された. <考察>移植片対宿主病(GVHD)は, 移植片(graft)に存在するリンパ球が宿主(host)内に生着し, 宿主の組織を異物として排除しようとする病態である. 血縁者の血液中のリンパ球は, そのHLA型が宿主の型に近似しているため, 宿主内に生着してGVHDを発症する可能性が高い. 本症例では, 血縁者からの新鮮血液中のリンパ球が原因となってGVHDを発症したものと推定され, 血縁者からの輸血を施行しなければ, その発症を未然に防ぐことができたと考えられる. <結語>1.輸血後に移植片対宿主病を発症した1症例を経験した. 2.本症例では, 血縁者からの血液中のリンパ球が宿主内に生着して発症したものと推定される. 3.血縁者からの無処置の新鮮血輸血は施行すべきではない.
ISSN:0288-4348