(I-P1-4)意図的な嚥下場面で著明な送り込み障害を呈した一例の検討

【症例】90歳, 男性. 脳梗塞後遺症. 入院時(発症2ヵ月), JCS1群. 軽度中枢性顔面麻痺を含む右片麻痺, 全身耐久性低下のため, 常に臥床状態. 全失語・失行様症状・注意障害に加え, 意欲・状況理解低下など精神活動低下も認めた. 口腔器官の詳細評価は困難だが, 安静時の舌偏位なく, 非意図的に挺舌・左右運動が可能. 嚥下機能は, 藤島のGrで3. 無意識下で唾液嚥下が可能だが, フードテストでは, 嚥下躊躇が明らか. 開口状態のまま食塊を口腔内に溜め, 咀嚼, 咽頭への送り込みがなかった. 【訓練内容】本例の嚥下躊躇の背景には, 意識レベル低下・注意障害のほか, 長期臥床に伴う精神活...

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Published in日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 Vol. 10; no. 3; p. 342
Main Authors 柳田直紀, 大塚佳代子, 丹治恵吏, 糸田昌隆, 内山良則
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 31.12.2006
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ISSN1343-8441

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Summary:【症例】90歳, 男性. 脳梗塞後遺症. 入院時(発症2ヵ月), JCS1群. 軽度中枢性顔面麻痺を含む右片麻痺, 全身耐久性低下のため, 常に臥床状態. 全失語・失行様症状・注意障害に加え, 意欲・状況理解低下など精神活動低下も認めた. 口腔器官の詳細評価は困難だが, 安静時の舌偏位なく, 非意図的に挺舌・左右運動が可能. 嚥下機能は, 藤島のGrで3. 無意識下で唾液嚥下が可能だが, フードテストでは, 嚥下躊躇が明らか. 開口状態のまま食塊を口腔内に溜め, 咀嚼, 咽頭への送り込みがなかった. 【訓練内容】本例の嚥下躊躇の背景には, 意識レベル低下・注意障害のほか, 長期臥床に伴う精神活動低下などの先行期障害が, 食物認知・状況理解に影響を及ぼしているものと推察, これらが準備期から口腔期に至る一連の摂食・嚥下動作の随意性に作用したと考えた. そこでSTでは, 先行期障害へのアプローチを中心に, 視覚・体性感覚など多感覚を利用した食物認知の促し, 食事動作や整容など上肢操作を用いた認知面への働きかけ, 離床の促しによる日常生活の活性化を行った. あわせて, 徒手的な口唇閉鎖, 舌・頬粘膜への感覚入力, K-point刺激法・嚥下反射促通手技などを活用した直接的訓練も開始. 嚥下パターンの再構築に取り組んだ. 【結果】訓練開始1ヵ月頃, STの介助・促しで咀嚼, 送り込み動作が出現. 訓練2ヵ月時, 時間を要すも, 促しなくペースト食1品の摂取が可能となった. この間, 状況理解に向上みられ, また身の回りの物品操作や食物への注意喚起が可能となった. その後, 段階的摂食訓練に移行. 訓練4ヵ月時, 車椅子座位で軟菜食の自力摂取が可能となった. 【考察】本例の嚥下躊躇には先行期障害が大きく関与していたものと思われ, そのアプローチには, (1)食物認知の促進を目的とした多感覚刺激の導入や, 能動的な上肢動作の促し(2)嚥下パターンの再構築を目的とした間接的・直接的訓練が有用であったものと推察した.
ISSN:1343-8441