「普通の会話」ができる自閉症児の語用障害に関する仮説の検討
知的に正常以上か, もしくは軽度遅滞である自閉症児は, かわるがわる質問し応答しコメントしあい, 特定の話題について多数の発話を連ねるといった程度の会話には困らない. にもかかわらず, 彼らの話し方は「普通の会話」と括弧書きせざるをえない特徴をいくつか備えている. それは, 間接発話の誤解, ターン交替規則の違反, 一方的な話題の開始や転換, 談話内での情報の新旧を示さないなど, 語用技能の障害として取り上げられてきた. ところがこれらの多くは, 他の障害をもつ事例でも同様に見いだされており, その生起の多寡を論じるのみでは自閉症児者との会話で生じる我々の独特な体験を説明することは難しい. 会...
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Published in | 聴能言語学研究 Vol. 15; no. 3; p. 172 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本聴能言語学会
25.12.1998
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Online Access | Get full text |
ISSN | 0912-8204 |
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Summary: | 知的に正常以上か, もしくは軽度遅滞である自閉症児は, かわるがわる質問し応答しコメントしあい, 特定の話題について多数の発話を連ねるといった程度の会話には困らない. にもかかわらず, 彼らの話し方は「普通の会話」と括弧書きせざるをえない特徴をいくつか備えている. それは, 間接発話の誤解, ターン交替規則の違反, 一方的な話題の開始や転換, 談話内での情報の新旧を示さないなど, 語用技能の障害として取り上げられてきた. ところがこれらの多くは, 他の障害をもつ事例でも同様に見いだされており, その生起の多寡を論じるのみでは自閉症児者との会話で生じる我々の独特な体験を説明することは難しい. 会話における彼らとの相互理解を確かにし, 通常の言語使用習慣の利用を助けるには, こうした個別語用障害の出現機序とその独自の性格を明らかにする必要がある. ここでは, 「基底レベルの自閉的な会話構成が表層レベルの語用技能障害をもたらす」という仮説について, 認知科学, 人工知能からの語用論研究が提出する「関連性」と「創発性」の2概念により, ターン重複に焦点を当て3症例と母親演者との会話から検討した. [自閉的会話構成] 症例1(10;4の男児, PIQ101, VIQ96)は会話する際に相手の発話の背後にある想定群に関連づけて話すのでなく, 一貫して物と行動またはそれについての考えをことばにしていると考えられた. [ターン重複] 症例2(10;7の女児, PIQ80, VIQ47)は, 自ら重複を修理したり, また意図的に相手を妨害する割り込みを行ったりするなど, ターン交替の普通の習慣に沿うようすもみられたが, 相手の発話の特定部分を無視する, 完全に無関係な話題を始めるなどの特有の重複がみられた. [自閉的会話構成と重複の関連] 症例3(6;1の男児, PIQ57, VIQ68)が母親演者との約40秒間の会話中に引き起こした5つの重複のうち3つは, 相手の想定には無関係に物と行動について述べることに伴っていた. |
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ISSN: | 0912-8204 |