歯原性腫瘍と嚢胞の組織分類
WHOの歯原性腫瘍の組織分類(第二版, 1992年)が公表されて既に4年余りが経過し, この分類に基づく診断も定着しつつあるといえるが, 歯原性腫瘍を構成する細胞や組織成分は他の腫瘍に比べ多様で, 亜型も多く, 診断に苦慮する事も多い. 歯原性腫瘍の組織分類も, 単純化と網羅性という分類自体がもつ矛盾を抱えてはいるが, 今回の第二版では腫瘍を構成する組織成分による分類という考え方をより明確に取り入れたという点で, 項目の羅列に終始していたと云える初版(1971年)に比べ, 進展があったといって良い. しかし, これらの多様な組織型と臨床症状や予後との関係については, 未だ充分な検討がなされてい...
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Published in | 歯科放射線 Vol. 36; no. 2; pp. 119 - 120 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本歯科放射線学会
30.06.1996
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ISSN | 0389-9705 |
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Summary: | WHOの歯原性腫瘍の組織分類(第二版, 1992年)が公表されて既に4年余りが経過し, この分類に基づく診断も定着しつつあるといえるが, 歯原性腫瘍を構成する細胞や組織成分は他の腫瘍に比べ多様で, 亜型も多く, 診断に苦慮する事も多い. 歯原性腫瘍の組織分類も, 単純化と網羅性という分類自体がもつ矛盾を抱えてはいるが, 今回の第二版では腫瘍を構成する組織成分による分類という考え方をより明確に取り入れたという点で, 項目の羅列に終始していたと云える初版(1971年)に比べ, 進展があったといって良い. しかし, これらの多様な組織型と臨床症状や予後との関係については, 未だ充分な検討がなされているとはいえない. これは, 歯原性腫瘍の発生頻度が比較的少なく, 症例の集積が不足していることや, 亜型が多く報告者間での統一が取りにくいからでもあるが, 多様な組織型に関する生物学的意義付けが未だ不充分であるためとも云える. 今回は, この第二版の主な改訂点に沿って, 症例を供覧しながら, 分類上の問題点について述べた. 第二版の特徴は, 良性歯原性腫瘍を組織成分によって3つの大きな項目, 即ち, 腫瘍実質として上皮組織のみ, 上皮組織と間葉組織, および間葉組織のみを含むものにそれぞれ分類した点にあり, 間葉組織は神経堤由来の歯原性外胚葉性間葉組織であると考えられている. また, セメント質に関する一定の考え方を提示し, それに基づいた分類の再編を行っている. 歯原性上皮からなる腫瘍には, 従来のエナメル上皮腫と石灰化上皮性歯原性腫瘍の他に, 扁平上皮性歯原性腫瘍と明細胞性歯原性腫瘍が加えられている. 初版でエナメル上皮腫の組織亜型と細胞の変異型を同列に配列していたものを改め, 組織型として濾胞型と叢状型の二型に分け, また, 単房性エナメル上皮腫をその細分類とともに取り上げている. 主な細胞の変異型として扁平上皮化生による棘細胞腫型と顆粒細胞型をあげている. 予後との関連では, 比較的予後良好な組織型として単房性, 周辺性および線維形成性エナメル上皮腫をあげている. 歯原性上皮と歯原性外胚葉性間葉組織を含み, 歯牙硬組織を伴う腫瘍は基本的組織型であるエナメル上皮線維腫およびその関連腫瘍としてまとめられている. この一群の病変は硬組織の量や成熟度, 上皮と間葉組織の割合などが多様で, 鑑別が困難な場合も多く, また, 経時的にそれらが変化するとも考えられ, 同一病変の発育時期の差による多様性であるとも考えられている. 歯原性石灰化嚢胞は用語として嚢胞の名前を残すとともに, 比較的多様な組織型を含む現在の概念もそのままとなっているが, 明らかな腫瘍性増殖を示すものはghost cellを特徴とする組織型として, 将来, 独立される可能性も示唆されている. 歯原性外胚葉性間葉組織からなる腫瘍に関しては, 従来のセメント質種の分類を大きく再編し, セメント質形成性の腫瘍は良性セメント芽細胞腫のみを歯原性腫瘍として分類し, 他のセメント質形成性病変はセメント質・骨異形成症とし, 非腫瘍性の骨関連病変として取り扱っている. 顎骨におけるセメント質や骨組織の形成を伴う線維腫は, 腫瘍性のセメント質と骨組織の鑑別は出来ないとの立場をとり, 臨床病態にも差違が見られないことから, 顎骨に特有な骨原性腫瘍としてセメント質・骨形成性線維腫という用語を用いて統合し, 歯原性腫瘍から除外しているが, 顎骨以外の骨に発生する骨形成性線維腫とは区別されるべきであり, 顎骨にも稀ではあるが, 顎骨以外の骨に見られる骨形成性線維腫が発生すると考えもある. 今回の分類では, 幼児の黒色性神経外胚葉性腫瘍は歯原性腫瘍から除外され, また, 悪性歯原性腫瘍では, 歯原性癌肉腫を新たに加えているが, いづれも極めて稀なものである. 歯原性嚢胞の分類に関しては, 歯原性の発育性嚢胞に側方歯周嚢胞, 成人型歯肉嚢胞, および腺様歯原性嚢胞を追加, また, 原始性嚢胞の代わりに歯原性角化嚢胞を用語として採用しているが, 同義語として原始性嚢胞という用語も残している. 追加された歯原性の発育性嚢胞はいづれも希なもので, 組織学的にも類似点が多く, それらの独立性に関しては未だ不明な点もあり, 項目の羅列にとどまっているともいえる. さらに, 歯原性の発育性嚢胞の一部には多胞性の発育や高い再発率などから良性腫瘍としての性格を有するものもあると考えられている事も, 今後の分類上の検討課題と考えられる. 一方, 非歯原性の発育性嚢胞では, いわゆる顔裂性嚢胞としての球状上顎嚢胞を除外し, 鼻口蓋管嚢胞と鼻唇嚢胞のみをあげている. 炎症性の嚢胞には, 根尖部にできる歯根嚢胞の他に, 辺縁性歯周炎によって生じ, 歯肉や歯根膜に存在する歯原性上皮の遺残に由来する歯周嚢胞を加えている. |
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ISSN: | 0389-9705 |