軽度発達障害児の幼児期における診断が母親に与えた影響について
【はじめに】3歳時に医師から「知的障害」と診断された軽度発達障害児の事例を報告する. この母親は診断名にこだわり, 子どもの自立を遅らせる関わりをしがちであった. 軽度発達障害児の幼児期における診断の重要性と問題点, 母親に与えた影響, 演者の役割などについて考察する. 【事例の概要】事例は出生体重3020g, 定頸6ヵ月, 始歩1歳7ヵ月の男児. 始語は1歳5ヵ月で, 3歳1ヵ月時のK-式発達検査で各DQは姿勢運動49, 認知適応54, 言語社会43, 全領域51であった. 【言語指導の経過】初回面接は3歳4ヵ月で, 発語は10語程度であった. 演者は本児の潜在能力の高さを感じ, 経過観察指...
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Published in | コミュニケーション障害学 Vol. 21; no. 3; p. 203 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本コミュニケーション障害学会
30.12.2004
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ISSN | 1347-8451 |
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Summary: | 【はじめに】3歳時に医師から「知的障害」と診断された軽度発達障害児の事例を報告する. この母親は診断名にこだわり, 子どもの自立を遅らせる関わりをしがちであった. 軽度発達障害児の幼児期における診断の重要性と問題点, 母親に与えた影響, 演者の役割などについて考察する. 【事例の概要】事例は出生体重3020g, 定頸6ヵ月, 始歩1歳7ヵ月の男児. 始語は1歳5ヵ月で, 3歳1ヵ月時のK-式発達検査で各DQは姿勢運動49, 認知適応54, 言語社会43, 全領域51であった. 【言語指導の経過】初回面接は3歳4ヵ月で, 発語は10語程度であった. 演者は本児の潜在能力の高さを感じ, 経過観察指導を経て5歳から週1回1時間の言語指導を開始した. 指導開始時のWPPSI知能検査では, 言語性は実施不能, 動作性はIQ83, 就学前のWPPSI再検では言語性IQ64, 動作性IQ103であった. 言語や知的能力は順調に成長したが, 身辺自立や情緒面で弱さが目立った. 母親の子どもへの関わりは全面介助に近く, 子どもに振り回されていた. 母親は「医師から知的障害が一生治らないと言われたとき, この子には無理をさせずに楽しく生涯を送らせたいと心に決めた. 今この子の成長した姿に, 自分がどうすればいいのかわからない. 」と述べた. 以後母親面接を重ね, 本児は養護学級に入学したが, その後の学力の向上に伴って, 2年生から通常学級へ移籍した. 母親も現状を理解し, 本人に適切な環境を与えることに自信をもった. 【考察】軽度発達障害児の幼児期における発達の様相は多様であるため, 診断は固定的ではなく, 発達に伴って変化しうる. しかし, この事例の場合は医師の断定的な説明によって, 母親に偏った養育態度が形成された. このことが, 本児の自立心や情緒発達に悪影響を及ぼしたと考えられる. 母親が我が子を等身大に受けとめるには, 子どもの成長と時間が必要であったが, このプロセスに演者は同道した, と考えている. |
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ISSN: | 1347-8451 |