胸腹部下行大動脈瘤グラフト全置換術の麻酔管理
今回われわれは, 左心バイパスと人工肺の併用により胸腹部大動脈瘤グラフト置換術の術中麻酔管理を円滑に行えた症例を経験したので報告する. 症例は, 58歳女性でDe Bakey IIIbの解離性大動脈瘤患者である. 術前合併症に高血圧症, 腎機能低下と心室性不整脈が認められた. 導入は, フェンタニール, ミダゾラムで行い, 維持は, 低濃度イソフルレンにフェンタニールを適宜追加した. 気管内チューブは, ブロッカー付き気管内チューブを使用し, 左開胸後, 右一側肺換気を行った. 下行大動脈遮断中は, 左心バイパスに熱交換器付き模型人工肺を併用する補助循環を, ヘパリン投与下に行った. バイパス...
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Published in | 蘇生 Vol. 12; p. 54 |
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Main Authors | , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本蘇生学会
01.04.1994
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ISSN | 0288-4348 |
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Summary: | 今回われわれは, 左心バイパスと人工肺の併用により胸腹部大動脈瘤グラフト置換術の術中麻酔管理を円滑に行えた症例を経験したので報告する. 症例は, 58歳女性でDe Bakey IIIbの解離性大動脈瘤患者である. 術前合併症に高血圧症, 腎機能低下と心室性不整脈が認められた. 導入は, フェンタニール, ミダゾラムで行い, 維持は, 低濃度イソフルレンにフェンタニールを適宜追加した. 気管内チューブは, ブロッカー付き気管内チューブを使用し, 左開胸後, 右一側肺換気を行った. 下行大動脈遮断中は, 左心バイパスに熱交換器付き模型人工肺を併用する補助循環を, ヘパリン投与下に行った. バイパス中は, プロタミンで中和するまで右一側肺換気を終始継続したが, 人工肺により動脈血酸素分圧は73~243mmHgであった. さらに熱交換器により体温を35.4~36.5℃に保てた. 麻酔時間は15時間, 手術時間は13時間, バイパス時間は4時間19分, 右一側肺換気継続時間は6時間45分, 出血量は3500mlであり, ICU入室後の12時間で抜管した. <考察>グラフトの再建は, 下行大動脈, 内臓への動脈, 肋間動脈, 腰動脈をも必要とされる. このため, 大動脈遮断時間が長くなり, 腹部臓器の虚血が懸念される. 以前は, 開腹開胸手技のための右一側肺換気による低酸素血症や, 長時間の補助循環による低体温により, 重症不整脈や心停止にいたる症例も経験した. しかし, 左心バイパスに人工肺を併用し動脈血酸素分圧を保ち, 熱交換器により体温保持を行うようになって麻酔管理に難渋した症例はない. また, 術野からの出血に関し自己血回収装置および限外濾過フィルターを使用することにより輸血量の削減が可能であり, 胸腹部大動脈瘤拡大手術にもかかわらず, 上述のような麻酔管理法の工夫により術中合併症を防止できた. |
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ISSN: | 0288-4348 |