家庭用洗浄剤混用で発生した塩素ガス吸入によると思われる急性呼吸不全の1例

<症例>42歳, 女性. 既往歴は小児期の虫垂切除術以外とくになし. 来院時意識はなく呼吸・心拍は停止していた. ただちにCPRを開始したが挿管直後気管内より約500mlの赤色泡沫状液体が吸引された. ICU搬送時の動脈血ガス分析はpH7.038, Pa_O2 36.8mmHg, Pa_CO2 101.3mmHg, BE-6.7mEq/リットル. 他の検査では軽度の白血球増加・低K血症・高血糖以外に異常値は認めなかった. CPRにより一時心拍再開が見られたが, 気管内チューブよりの液体流出は止らず, 動脈血ガス分析値の改善が得られないまま来院3時間後に死亡した. 剖検時の肺は肉眼的...

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Published in蘇生 Vol. 8; p. 79
Main Authors 柴田達彦, 宮崎忠昭, 小田切徹太郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 01.05.1990
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Summary:<症例>42歳, 女性. 既往歴は小児期の虫垂切除術以外とくになし. 来院時意識はなく呼吸・心拍は停止していた. ただちにCPRを開始したが挿管直後気管内より約500mlの赤色泡沫状液体が吸引された. ICU搬送時の動脈血ガス分析はpH7.038, Pa_O2 36.8mmHg, Pa_CO2 101.3mmHg, BE-6.7mEq/リットル. 他の検査では軽度の白血球増加・低K血症・高血糖以外に異常値は認めなかった. CPRにより一時心拍再開が見られたが, 気管内チューブよりの液体流出は止らず, 動脈血ガス分析値の改善が得られないまま来院3時間後に死亡した. 剖検時の肺は肉眼的・組織学的に広範囲の浮腫・うっ血・出血が認められ, 組織学的にはさらに気管支粘膜の剥離が認められた. 家族の証言によると, 患者はトイレの掃除をすると言ってから約20分後に気分不快を訴えて倒れ, 男子用トイレには次亜塩素酸ナトリウムを含む「塩素系洗浄剤」と塩酸を含む「酸性系洗浄剤」が置いてあった. この2種類を混合すると塩素が発生する. 本症例は短時間で意識を失い回復しないまま死亡したため発症時の細かい状況は推測の域を出ない. しかし既往症がとくになく, 経過や症状・剖検所見より, トイレ洗浄剤混用による塩素中毒が強く疑われた. 推定された発症時の状況を再現する目的で動物実験を行った. <実験>縦21cm横25cm高さ28cmの容器の底にシャーレを置き2種類の洗浄剤16mlずつを混ぜ, 9匹のマウスの入った網状のケージを容器中に入れた. 塩素濃度は検知管を用いて測定した. <結果>塩素濃度は混合1分後で300ppm, 5分後・10分後は50ppmであり, マウスは9~21分で死亡した. その剖検所見は上記症例と類似していた. <考察>塩素は1ppmが許容量とされ, 100ppmでは速やかに死亡するといわれる. また比重が2.49と大きいため低い部分にたまりやすく, 思わぬ高濃度を吸入する可能性がある. トイレ洗浄剤は塩素系と酸性系を混用しないよう注意すべきである.
ISSN:0288-4348