ツキノワグマの秋期における堅果樹種および人為景観に対する選択の個体差と性差

近年,ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の保護管理では,人や農作物に繰り返して被害をもたらす特定個体(以下,問題個体とする)の発生が大きな課題となっている.ツキノワグマの行動や食性には個体差が大きいことから,問題個体が生じる要因の一つと考えられる.また,人里で有害捕獲されるツキノワグマの性比に偏りが見られる地域が存在することから,性差もツキノワグマの生息地選択を捉える上で重要である.本研究は,足尾日光山地で捕獲した単独成獣メスと成獣オスのツキノワグマの行動データを使用して,秋の堅果樹種および人為景観に対する選択における個体差および性差の大きさの違いを明らかにすることを目的として行...

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Published in哺乳類科学 Vol. 58; no. 2; pp. 205 - 219
Main Authors 根本, 唯, 小坂井, 千夏, 山﨑, 晃司, 小池, 伸介, 正木, 隆, 梶, 光一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本哺乳類学会 2018
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Summary:近年,ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の保護管理では,人や農作物に繰り返して被害をもたらす特定個体(以下,問題個体とする)の発生が大きな課題となっている.ツキノワグマの行動や食性には個体差が大きいことから,問題個体が生じる要因の一つと考えられる.また,人里で有害捕獲されるツキノワグマの性比に偏りが見られる地域が存在することから,性差もツキノワグマの生息地選択を捉える上で重要である.本研究は,足尾日光山地で捕獲した単独成獣メスと成獣オスのツキノワグマの行動データを使用して,秋の堅果樹種および人為景観に対する選択における個体差および性差の大きさの違いを明らかにすることを目的として行った.生息地選択に対する個体差と性差を推定するモデルを作成し,各植生被覆[ミズナラ(Quercus crispula)林,その他堅果樹種林,市街地,農地]に対する選択や忌避の強さと個体や性別との間の関係を解析した.また,堅果の並作年と不作年を分けてモデル化し,堅果結実量の年次変動による影響も調べた.全個体の平均的な傾向として,ツキノワグマは,並作年ではミズナラ林を選択し,その他堅果樹種林,市街地,および農地を忌避していた.不作年では,ミズナラ林とその他堅果樹種林を選択し,市街地と農地を忌避していた.しかし,ミズナラ林とその他堅果樹種林に対する選択の強さには,並作年と不作年の両方で大きな個体差が見られ,特に不作年では並作年より個体差が拡大した.一方で,性差はどの植生被覆に対する選択でも明確ではなかった.以上より,本調査地におけるツキノワグマの秋期における堅果樹種および人為景観に対する選択は,性差よりも個体差の方が大きく,その個体差は人為景観よりも堅果樹種に対する選択で大きく,さらにミズナラ堅果の不作年には拡大することが明らかになった.
ISSN:0385-437X
1881-526X
DOI:10.11238/mammalianscience.58.205