高野ら“縦隔癌に対する化学放射線治療後に発症した放射線誘発肺癌の1例”

本症例は, ブリンクマン指数(Brinkman index, BI)が1000以上の重喫煙歴とアスベスト曝露歴のある78歳男性における, 縦隔癌に対する照射域に生じた小細胞肺癌の報告である. 中縦隔に限局する径8cmの腫瘤に対してEBUS-TBNAによる組織から未分化癌の診断を得て, 総線量60Gyの単純分割照射法を含む化学放射線同時併用療法によって完治に至った症例であった. その後照射肺野内に放射線肺炎をきたしたものの, 治療するまでもなく器質化して安定したものの, 3年程度で器質化したような病変が小細胞癌に置き換わり, 化学療法の効果もなく4か月で亡くなったという. 最初の中縦隔に生じた未...

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Published inThe Journal of the Japan Society for Respiratory Endoscopy Vol. 38; no. 5; p. 355
Main Author 海老名, 雅仁
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会 2016
日本呼吸器内視鏡学会
The Japan Society for Respiratory Endoscopy
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ISSN0287-2137
2186-0149
DOI10.18907/jjsre.38.5_355

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Summary:本症例は, ブリンクマン指数(Brinkman index, BI)が1000以上の重喫煙歴とアスベスト曝露歴のある78歳男性における, 縦隔癌に対する照射域に生じた小細胞肺癌の報告である. 中縦隔に限局する径8cmの腫瘤に対してEBUS-TBNAによる組織から未分化癌の診断を得て, 総線量60Gyの単純分割照射法を含む化学放射線同時併用療法によって完治に至った症例であった. その後照射肺野内に放射線肺炎をきたしたものの, 治療するまでもなく器質化して安定したものの, 3年程度で器質化したような病変が小細胞癌に置き換わり, 化学療法の効果もなく4か月で亡くなったという. 最初の中縦隔に生じた未分化癌とは全く異なる小細胞肺癌であり, 放射線肺炎に合致する領域に生じていることから放射線誘発肺癌と診断している. もちろん, 患者の職歴や重喫煙例からしても肺癌の発症は不思議でないことから重複癌との鑑別も必要であろうが, 実際的には極めて困難であり, 状況証拠的に放射線誘発肺癌として報告された. 実際, 患者が生活歴で加えられていたDNA障害は, 細胞毒性の抗がん剤と放射線によってさらに障害が加わって, 多種多様な遺伝子異常を持つことで知られる小細胞肺癌が生じたことは十分想定される. もしこれがすでに進行しつつあった重複癌の小細胞肺癌であったとしたら, おそらくは最初の治療で相当に抑制されていたであろう. 当初の段階で正常域にあったNSEが異常高値になった一方で, Pro-GRPが正常域であったこと, 病理組織の検討で synaptophysin とCD56(NCAM)が陽性であったことからすると, この癌細胞はより神経系に近い神経内分泌細胞であり, そのためにまた小細胞癌に対する治療が奏功しにくかった可能性もあるであろう. 実は26年も前にラットの胎児肺を用いて肺神経内分泌細胞の発達を観察していたころ, NSEは "neuron-specific" ではなく "non-specific" enolase として, いわば蔑まれていたもので, いまだにその特異性ははるかにPro-GRPのほうが高いと感じることが多い. 本報告には, 稀ながらも癌治療後の二次性肺癌の可能性を想定すべきであることと, より神経系に近い神経内分泌細胞由来の癌の検出という目的でNSEも測定すべきであることを, 再確認させられた.
ISSN:0287-2137
2186-0149
DOI:10.18907/jjsre.38.5_355