B-12 難治性の上肢反射性交感神経萎縮症に塩酸モルヒネが著効した症例(第13回杏林医学会総会)

反射性交感神経萎縮症(Reflex Sympathetic Dystrophy:RSD)は, 治療が難しい疾患である. 今回, 塩酸モルヒネが著効した症例を経験した. 54歳男性. 44歳時, 車のトランクに右栂指を挟み, 右上肢に痛みと知覚過敏が出現した. 51歳時, 糖尿病を指摘された. 発症から4年間は非ステロイド系抗炎症薬(NSAID), 四環系抗うつ薬, 神経ブロックおよびトリガーポイントブロックの治療を受けたが, 効果はなかった. 48歳時, 胸腔鏡下右交感神経節切除を受けたが, 痛みと冷感が増悪, 胸腔鏡刺入部の痛み(どんぐりが挟まったような痛み)が継続した. また, 右手の発汗...

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Published inJOURNAL OF THE KYORIN MEDICAL SOCIETY Vol. 36; no. 1; pp. 92 - 93
Main Authors 光田, 将憲, 巌, 康秀, 遠山, 誠, 金子, 伸一, 森山, 久美, 北原, 友輔, 加藤, 寛子, 萬, 知子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 杏林医学会 2005
The Kyorin Medical Society
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ISSN0368-5829
1349-886X
DOI10.11434/kyorinmed.36.92_3

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Summary:反射性交感神経萎縮症(Reflex Sympathetic Dystrophy:RSD)は, 治療が難しい疾患である. 今回, 塩酸モルヒネが著効した症例を経験した. 54歳男性. 44歳時, 車のトランクに右栂指を挟み, 右上肢に痛みと知覚過敏が出現した. 51歳時, 糖尿病を指摘された. 発症から4年間は非ステロイド系抗炎症薬(NSAID), 四環系抗うつ薬, 神経ブロックおよびトリガーポイントブロックの治療を受けたが, 効果はなかった. 48歳時, 胸腔鏡下右交感神経節切除を受けたが, 痛みと冷感が増悪, 胸腔鏡刺入部の痛み(どんぐりが挟まったような痛み)が継続した. また, 右手の発汗が減った代わりに, 右前胸部にしか汗をかかなくなり, 夏には熱中症で倒れることがあった. 49歳時に当院受診し, 星状神経節ブロック, 肩甲上ブロック, 斜角筋間ブロック, トリガーポイントブロックを計数百回施行しているが, 効果は数時間から数日であった. 50歳時に脳直流通電療法(ECT)を行い, 数ヶ月間緩解したが, 再発した. その後神経ブロックは継続したが, 痛みは緩和されず, 激しい痛みを訴えて救急外来を受診することも度々あった. 本年7月(54歳)に治療方針を変更した. 変更前, 右手の皮膚が暗赤色を呈し, 皮膚温の低下と浮腫を伴っていた. VAS(Visual Analog Scale)は100であった. 神経ブロックを中止し, アミトリプチリンの就寝前投与と塩酸モルヒネの内服(20mg/day)を開始したところ, 1週間でVAS70になった. モルヒネを増量(80mg/day)したところ, 1ヵ月後には右手, 前胸部ともVAS60となり, 右手の色調が改善した. 2ヵ月後には右手の皮膚温が上昇, 全身発汗も再開した. モルヒネ開始以降, 救急外来は受診していない. RSDの治療は, 神経ブロック, NSAID, 抗うつ薬, 抗痙攣薬などを併用する. モルヒネなどのオピオイドが有効であるという報告は, 海外では非常に多い. 日本では, 癌性疼痛以外に使用できるオピオイドの選択範囲が制限されている. 今回, モルヒネが有効であった理由として, オピオイドの中枢性の鎮痛作用で痛みの悪循環が遮断されたことにより, ホルモンバランスが改善し, 抹消血管拡張や全身発汗がみられるようになったことが考えられる. 今後使用可能な薬剤が増え, RSDのような難治性疼痛の治療の質が向上することを期待する.
ISSN:0368-5829
1349-886X
DOI:10.11434/kyorinmed.36.92_3