喀血への対応と安全な医療(すこーぷ)

喀血への対応は, 気管支鏡検査に伴う出血や, 大量の気道出血への対処法として重要な問題で, 未だ確実な対応の方法が確立されているとはいえません. また有力な止血法である気管支動脈塞栓術(BAE)に用いるゼラチンスポンジ(スポンゼル(R))が, もともと適応症にはなかったものの, 平成18年10月から血管内への注入が禁忌に指定されて実質的に使用禁止となったので, 事実上BAEをおこなうことはコイル以外では不可能となりました. それでは生命をおびやかすような大喀血に対してはいかなる方法がとりうるのでしょうか. 大喀血時の緊急手術は気道確保の観点から困難であろうし, 経気道的な止血の方法は確立してい...

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Bibliographic Details
Published inThe Journal of the Japan Society for Respiratory Endoscopy Vol. 29; no. 1; p. 1
Main Author 倉岡, 敏彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会 2007
日本呼吸器内視鏡学会
The Japan Society for Respiratory Endoscopy
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ISSN0287-2137
2186-0149
DOI10.18907/jjsre.29.1_1

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Summary:喀血への対応は, 気管支鏡検査に伴う出血や, 大量の気道出血への対処法として重要な問題で, 未だ確実な対応の方法が確立されているとはいえません. また有力な止血法である気管支動脈塞栓術(BAE)に用いるゼラチンスポンジ(スポンゼル(R))が, もともと適応症にはなかったものの, 平成18年10月から血管内への注入が禁忌に指定されて実質的に使用禁止となったので, 事実上BAEをおこなうことはコイル以外では不可能となりました. それでは生命をおびやかすような大喀血に対してはいかなる方法がとりうるのでしょうか. 大喀血時の緊急手術は気道確保の観点から困難であろうし, 経気道的な止血の方法は確立していません. それでは, スポンゼル(R)の血管内使用が禁忌なのを承知の上で患者さんの同意をとってBAEをおこなうのでしょうか. この面でも昨今の医師をとりまく医療情勢, とくに法務関係は厳しい環境にあります. いくら他に方法がないからと患者の同意をとってBAEをおこなっても, 脊髄麻痺などの合併症がおこれば確実に負けるし, 民事での損害賠償で済めばまだしも, 禁忌となっているものを血管内に注入すれば結果のいかんにかかわらず, 見方によれば業務上過失致死や傷害罪で刑事事件として立件の可能性も出てきます. 医療の分野で善意の医療行為に業務上過失致死罪を適用している国はないとのことですが, 今まさに日本では, 福島県で産婦人科医が妊産婦の失血死で起訴. 逮捕までされた事例がおこっています. この事態に怒り心頭といった気持ちです. 気管支鏡検査による生検やレーザー照射などにより運悪く出血して死亡する例も皆無ではありません. 呼吸器内視鏡学会では安全対策委員会を設置して「気管支鏡検査を安全に行うために」という手引書を掲載していますが, いくら出血傾向の検査など万全を尽くしても生検後の出血は完全には防げないし, 確実な治療法もないとなれば検査する医師の立場はどうなるのでしょうか. 医師の身の安全を図る必要もあります. 病院同士がリスクを押し付けあった奈良県の大淀病院のような妊産婦転送死亡事故なども大いに考えさせられます. いま一度, 肝動脈塞栓療法の適応あるゼラチン製剤を改良してBAEへの適応を申請するとか, 気道からのアプローチによる確実で専門医なら誰にでもできる止血法などを確立することが緊急の課題ではないでしょうか.
ISSN:0287-2137
2186-0149
DOI:10.18907/jjsre.29.1_1