Lancasterから

• Published in: 信州医学雑誌 Vol. 53; no. 5; p. 353
• Main Author: 兼子, 一真
• Format: Journal Article
• Language: Japanese
• Published: 信州医学会 2005
• ISSN: 0037-3826; 1884-6580
• DOI: 10.11441/shinshumedj.53.353

イギリス滞在中 Lancasterはイングランド北東部に位置し,その名が示すようにLancashire地方の中心都市でした.古くはアフリカ等からの奴隷の輸入基地として栄えていましたが,産業革命以後,周辺のManchesterやリバプールの成長が著しく,現在では歴史的重要性を持つのみとなっているようです.しかし,北隣に国内有数の観光地である湖水地方(Lake district)を,また西にはMan島を望む海岸を控えていることから,観光地として再び繁栄の兆しを見せています.日本における松本市と同じような状況でしょうか? Manchesterから北に向かい1時間半ほど電車に揺られLancaster駅に降り立つと,目の前に小高い丘があり,そこには以前は堅牢な刑務所として使用され現在は裁判所として利用されているLancaster城が望めます.駅周辺は城の威容以外には目立つものがなく寂しい感じがしますが,通りを3分程歩くと石畳の美しい市街に出ます.新旧の商店が建ち並び,人通りも多くにぎやかな所です.毎週水曜日には野菜等の市が立ち,新鮮なものを安く手に入れることが出来ます.といっても値段は日本と同じかやや高いくらいですが,スーパー等に比べると幾分安いのです.そうなのです,イギリスは結構物価が高いのです.町の中心部からバスで15分程の郊外に,私の通うLancaster大学があります.Lancaster大学は1960年代に創立された,イギリスでは極めて新しい部類の大学です.しかし,広大な敷地に60以上の建物があり,学生,職員を合わせ2万人以上の人員を収容する総合大学です.世界的に言語学が有名なためか,海外から,特に英語圏以外からの留学生が多いようです.学生の多くは学内の寮で生活しているため,大学敷地内には,スーパー,銀行,郵便局,ヘアーサロン,レストラン,旅行代理店等様々な店があり,不自由なく生活できるよう配慮されています.私はDepartment of Biological ScienceのDavid Allsop教授のもとで,神経変性疾患における異常蛋白の影響について研究しています.研究員は大学院生を含め6人と小規模ですが,他の教室と合同で実験室を使用しているため,寂しさは全く感じません.また,小規模ながらイギリス人2人,アラブ人2人,日本人2人と,国際色豊かな研究室です.Allsop教授はDepartment内でも有名な音楽(特にロックらしい)好きで,自らギターを弾かれます.大変気さくな方で,朝夕実験室に顔を出し,自分から研究員に声を掛けて下さいます.研究内容については,神経変性疾患,蛋白異常,酸化ストレス,という大きな枠組みはあるものの,自主性を重んじるAllsop教授の方針で,研究テーマは各人の自由な判断に任されています.結果にっいてその都度Allsop教授とdiscussionし,その次の方針を決定する,といった感じで研究が進められています.自由な反面,結果についての責任は自分で負うという,いかにも長年熟成された大人の国であるイギリスらしい研究室ではないでしょうか.私のイギリスでの研究生活はまだ始まったばかりですが,成果をあげることはもちろんですが,イギリス流の研究姿勢を身につけることも目標にがんばりたいと考えています.最後になりましたが,無理なお願いにも関わらず,快く送り出していただいた第3内科池田教授ならびに教室員の皆様に紙面をお借りしてお礼を申し上げます.(2005年5月)