中枢神経系におけるトリメチルスズの作用

「はじめに」スズ(tin)は比較的安全な金属として青銅器時代より用いられ, 現在でもメッキやハンダとして汎用される. しかし有機スズの一種であるトリメチルスズ(TMT)は, 高用量の暴露により中枢辺縁領域の神経機能障害を惹起することが, げっ歯類1-12)だけでなくヒト13-15)でも広く知られており, またそれに関連する行動異常や, 末梢機能異常, 近年では, 神経幹細胞に対する作用など, 多彩な中枢作用が見出されている. 4)有機スズでは, 雌の貝(イボニシ)を雄性化させるトリブチルスズ(TBT)16)を始め, スズに結合する有機基の種類や数によって異なる, 種々の特異的な作用が知られてい...

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Published inYAKUGAKU ZASSHI Vol. 127; no. 3; pp. 451 - 461
Main Authors 新谷, 紀人, 荻田, 喜代一, 橋本, 均, 馬場, 明道
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本薬学会 01.03.2007
日本薬学会
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Summary:「はじめに」スズ(tin)は比較的安全な金属として青銅器時代より用いられ, 現在でもメッキやハンダとして汎用される. しかし有機スズの一種であるトリメチルスズ(TMT)は, 高用量の暴露により中枢辺縁領域の神経機能障害を惹起することが, げっ歯類1-12)だけでなくヒト13-15)でも広く知られており, またそれに関連する行動異常や, 末梢機能異常, 近年では, 神経幹細胞に対する作用など, 多彩な中枢作用が見出されている. 4)有機スズでは, 雌の貝(イボニシ)を雄性化させるトリブチルスズ(TBT)16)を始め, スズに結合する有機基の種類や数によって異なる, 種々の特異的な作用が知られている. 1-3)例えば, トリエチルスズ(TET)はげっ歯類でミエリン脱落を伴う活動量減少や筋力低下, 脳浮腫を引き起こし, TBTは免疫系の機能異常を引き起こす. 2)しかし, いずれもTMTのような中枢辺縁領域の神経傷害は惹起せず, それぞれのジアルキル体, モノアルキル体も重篤な毒性は発揮しない. 2, 3, 6)これら組織特異的な毒性のメカニズムは, TBTで著しく活性化されるretinoid X receptor(RXR)17)やhistone acetyltransferase 18)に関する研究から分子レベルでの考察がなされている一方, 近年では, TMTで障害を受ける組織に特異的に発現する分子stannin 19)に関する研究や, 各種遺伝子改変動物を用いた研究からも, その特異的作用メカニズムの考察がなされている.
ISSN:0031-6903
1347-5231
DOI:10.1248/yakushi.127.451