古典的条件づけの学習理論と可逆的遺伝子発現制御システムを用いた実験的検証

「1. はじめに」90年代初頭に遺伝子ターゲティング法を用いた逆遺伝学が記憶・学習の生物学的研究にあたらしい地平を切り開いて以来, 個体レベルでのマウス遺伝子改変技術の進歩は, これまで実験レベルでは困難だった学習理論の妥当性についての検証を可能にしつつある1). 本稿では, 運動学習の1種として知られる瞬目反射条件づけを1つの学習モデルとして, 古典的条件づけの基本的な学習理論と, 可逆的遺伝子On/Of制御システムを利用してそのダイナミクス解明に迫った最近の研究例について紹介する. 「2. 古典的条件づけの学習理論」古典的条件づけの現象が, パブロフによりはじめて報告されてからおよそ100...

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Published in生物物理 Vol. 50; no. 4; pp. 195 - 198
Main Author 岸本, 泰司
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本生物物理学会 2010
日本生物物理学会
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Summary:「1. はじめに」90年代初頭に遺伝子ターゲティング法を用いた逆遺伝学が記憶・学習の生物学的研究にあたらしい地平を切り開いて以来, 個体レベルでのマウス遺伝子改変技術の進歩は, これまで実験レベルでは困難だった学習理論の妥当性についての検証を可能にしつつある1). 本稿では, 運動学習の1種として知られる瞬目反射条件づけを1つの学習モデルとして, 古典的条件づけの基本的な学習理論と, 可逆的遺伝子On/Of制御システムを利用してそのダイナミクス解明に迫った最近の研究例について紹介する. 「2. 古典的条件づけの学習理論」古典的条件づけの現象が, パブロフによりはじめて報告されてからおよそ100年が経過したが, 彼の理論はいくつかの修正を受けながらも行動主義心理学の礎としての地位を保っている2). この学習は, それ単独では生体に反応をひき起こさない中性刺激(条件刺激, CS)と, 生理反応をひき起こす刺激(無条件刺激, US)が十分な回数対提示されると, 本来USが引き起こす反応がCSによって生じるようになるという学習である.
ISSN:0582-4052
1347-4219
DOI:10.2142/biophys.50.195