小規模事業場における労働者の「治療と仕事の両立支援」の申出意図の促進要因:協働的風土の観点から

目的:厚生労働省が推進する「治療と仕事の両立支援」では,制度についての事業所,医療機関,労働者への情報提供および普及啓発や,診療報酬改定が進められてきた.一方,先行研究においては,中小企業の労働者は病気の治療のため両立支援を申し出ることにデメリットを強く感じており,職場の協働的風土や経営者の風土への関心・理解といった要因が両立支援の申出意図に影響を及ぼすことが示唆されてきた.本研究では従業員数50人未満の小規模事業場の労働者を対象として,職場の協働的風土および経営者の職場風土への態度と,両立支援の申出意図との関連を職種別に分析することを目的とした.対象と方法:2024年1月,従業員数10~49...

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Published in産業衛生学雑誌 Vol. 66; no. 6; pp. 281 - 291
Main Authors 山内, 貴史, 島崎, 崇史, 須賀, 万智
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本産業衛生学会 20.11.2024
日本産業衛生学会
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Summary:目的:厚生労働省が推進する「治療と仕事の両立支援」では,制度についての事業所,医療機関,労働者への情報提供および普及啓発や,診療報酬改定が進められてきた.一方,先行研究においては,中小企業の労働者は病気の治療のため両立支援を申し出ることにデメリットを強く感じており,職場の協働的風土や経営者の風土への関心・理解といった要因が両立支援の申出意図に影響を及ぼすことが示唆されてきた.本研究では従業員数50人未満の小規模事業場の労働者を対象として,職場の協働的風土および経営者の職場風土への態度と,両立支援の申出意図との関連を職種別に分析することを目的とした.対象と方法:2024年1月,従業員数10~49人の企業に勤務する20歳~64歳の正社員で,病気による就業制限の経験がなく,両立支援について内容を把握していない労働者モニター1,800人を対象としたオンライン調査を実施した.対象者はわが国の業種・性・年齢階級別の従業員数構成比と整合するようサンプリングされた.両立支援の申出意図については,研究参加者に両立支援制度の概要を把握させたうえで,自身ががんに罹患し主治医から通常勤務は難しいと指摘された場面を想定させ,このような状況下での両立支援の申出意図を尋ねた.産業保健スタッフの在不在などの業務関連要因および基本属性の影響を調整したうえで,職場の協働的風土(弱,強)と経営者の職場風土への態度(経営者関心,経営者関心あり)との組合せ変数(「風土×経営者態度」)を主たる説明変数,両立支援の申出意図を目的変数とした多変量2項ロジスティック回帰分析を実施した.また,職種(ホワイトカラー,ブルーカラー)による層別解析を施行した.結果:分析対象者1,800人(女性602人,男性1,198人)のうち,1,350人(75.0%)が両立支援を「申し出る」と回答した.2項ロジスティック回帰分析の結果,「風土弱・経営者関心」群と比較して,「風土強・経営者関心」群(オッズ比:1.5,95%信頼区間:1.07–2.1)および「風土強・経営者関心あり」群(オッズ比:2.0,95%信頼区間:1.4–2.9)では「申し出る」が有意に多かった.職種による層別解析の結果,職種を問わず,「風土弱・経営者関心」群と比較して,「風土強・経営者関心あり」群では「申し出る」が有意に多かった(ホワイトカラー,オッズ比:2.2,95%信頼区間:1.3–3.8;ブルーカラー,オッズ比:2.0,95%信頼区間:1.1–3.3).また,在宅勤務・テレワーク制度以外の柔軟な勤務・休暇制度がある,および職場での相談相手がいる場合には両立支援の申出意図を示す者が有意に多かった.考察と結論:本研究では従業員数10~49人の小規模事業場の労働者において,職種を問わず「風土弱・経営者関心」群と比較して,「風土強・経営者関心あり」群では両立支援を「申し出る」者が有意に多かった.職場の協働的風土そのものの程度が,経営者の風土への態度以上に労働者の両立支援の申出意図に影響を及ぼし得ること,および,職場の協働的風土と経営者の職場風土への態度とが申出意図に相乗的効果を及ぼし得ると考えられた.職場の協働的風土の醸成,および風土醸成への経営者の関心・理解の促進によって,職種を問わず小規模事業場の労働者の両立支援の申出を促進し得る可能性が示唆された.
ISSN:1341-0725
1349-533X
DOI:10.1539/sangyoeisei.2024-012-B